【延寿通信】 2018年03月23日(金)

延寿通信 第176号 2018年4月

生薬配合入浴剤「延寿湯温泉」のユニークな成分

--松皮の話


 3月12日の日経新聞に「コリリ食感 うま味濃厚」という見出しで北海道の高級魚マツカワが紹介されました。北海道では幻の王鰈(おうちょう=カレイの王様)と言って、マツカワは料理店では大事にされています。カレイの一種で高級魚であるため、普通の魚屋さんやスパーには並んでいません、というのです。魚の名前ですので、通常は漢字は使われませんが、この魚は時には「松皮」と書いているときもあります。名前の由来は、魚マツカワの表面が松の木の皮に似てジョリジョリしているからだそうです。
 生薬入浴剤「延寿湯温泉」の袋の成分欄には「松皮」というのが、炭酸ナトリウムのあと、二番目に出ています。松の皮といえば、この魚のマツカワと名前の通り、松の木のごつごつした樹皮のことでしょう。松皮をネットで調べてみました。すると、松皮とは、薬に程遠いものばかりです。真っ先に出てきたのが冒頭の魚・カレイです。もう一つ、松皮は餅の一種で秋田県の名物とあります。魚といい、餅といい、どうも薬には関係のないものばかりです。
 一体、生薬入浴剤「延寿湯温泉」には、どういう松の木の皮が入っているのでしょうか。松と一言でいってもアカマツ、クロマツ、エゾマツ、ゴヨウマツ・・・日ごろ見かける松はいろいろあります。
 生薬入浴剤「延寿湯温泉」はアトピーにもいいですよとか、肩こり、腰痛にも効果ありというのですから、きっと、素晴らしい松の木の皮なのでしょう。

1.松という樹木、その仲間たち
 門松、注連縄(しめなわ)・・・ 松は正月の門扉を飾るには欠かせない植物で、縁起のいい大変お目出度い木です。松の落ち着いた雰囲気と形、重厚な姿、松葉の素朴な外観と変わらぬ色彩、どっしりした構え、それを支える幹・・・と、松は、まさに日本庭園の王者として君臨しています。神社、仏閣をはじめ、歴史に残る庭園などにも、お馴染みの松は出て来ます。松のない庭は、庭とは言えないと、造園業者のなかにはここまで言う人がいます。 
 松といえば、見るだけの鑑賞用の樹木なのでしょうか。
マツ科というのは、もともと薬には縁遠いグループのようです。『本草綱目』(1596年刊)という中国の医薬用植物の古典には、松は一つも出て来ません。また、『牧野和漢薬草大図鑑』(北隆館)では日本産ではアカマツがあるのみで、あと、バビショウ、ダイオウマツ、イヌカラマツ他2種が収載されているのですが、いずれもこれらは中国の他海外の植物です。この海外品の中にイヌカラマツが掲載されております。マツ科で、この和漢薬の図鑑に薬草、厳密には薬木として掲載されているのは国内外含めて、わずか6品目のみです。
 ここで取り上げているアカマツは樹木そのものではなく、松の分泌物であるロジンが生薬として出て来ます。しかし、アカマツはもちろん、ロジンも公定の医薬品の規格書には収載されていません。
『日本薬草全書』(新日本法規 1995年刊)にはマツ科ではアカマツが1品のみ収載されていますが、やはり松の分泌物であるロジンとテレピン油が対象です。アカマツの枝葉、幹、木質など樹木の構成物そのものを薬として使うことはないようです。
 難波恒雄『原色和漢薬図鑑』(保育社1980年刊)には、松は松香(しょうこう)という名の松脂が出て来ますが、松の木そのものは出ていません。しかし、本書の中、樹木の皮を集めた項目の中に、土槿皮(どきんぴ)というのがあって、ここにイヌカラマツの記事が出て来ます。土槿皮というのはイヌカラマツの樹皮であると説明され、薬用として使われるという説明があります。これが生薬入浴剤「延寿湯温泉」に配合されている松皮の本体です。

2.ロジンとテレビン油
 ロジンとテレビン油というのは松の木の産する成分で、俗に言う松脂であり、粘性あるもの、あるいは固形のものがロジンで、テレビン油は香りの高い液状の油成分です。
 ロジンは松脂の固形物を細かい粉末にしたものを布袋入りにして、野球でグラウンドの投手が指の滑り止めに使うのでお馴染みです。野球の放送では、これをロジンバッグといっていますが、『広辞苑』にも野球選手が使うと説明しています。ロジンは粘着性が強いので、滑り止めにはいいのですが、これのみでは粘着性が強すぎて使えません。野球のロジンバッグの中味は炭酸マグネシウム80%、ロジン15%、石油樹脂5%の混合物になっています。日本では1965年ごろから野球で使われだしました。
 テレビン油は松脂を水蒸気蒸留して造ります。無色の粘性の高い精油ですが、揮発性があり、また空気に触れると固化します。ワニス、ペイントの製造原料、あるいは油絵に使います。医薬品の原料として、あるいは合成龍脳、樟脳の原料にもなります。
 ロジン、テレビン油は、松の木の幹に傷を付けて、生松脂を取り、これを精製することにより得られます。

3.イヌカラマツという木
 土槿皮のところで出てきた薬用植物のイヌカラマツ(犬唐松、犬落葉松)は中国が原産地で、限られた地方にのみ生えており、しかも、標高1000m以上の高地に生えます。日本では自生しませんので、クロマツ、アカマツと違って一般の人には耳慣れない松ということになります。
 日本に生えている本来の落葉高木のカラマツは薬用では使われませんので、上述の図鑑には出ていません。
 生薬入浴剤「延寿湯温泉」で使われている松皮は、イヌカラマツの樹皮であり、中国からの輸入品です。
 イヌカラマツは、日本では化石として出てくる「生きている化石植物」の一つです。この化石植物というのは樹木としての起源が古く、約3400万年前から2300万年前のもので、この頃には日本にも存在したということです。
 イヌカラマツは松の仲間ですが、これは珍しく落葉樹なのです。秋になると葉はあざやかな鮮黄色になり、葉は落ちます。中国では、この黄色になった木は黄金松、あるいは金銭松と呼ばれています。色づいたあと、見事な松かさが出来ます。イヌカラマツの葉は松ですので針状ですが、葉のつき方はアカマツやクロマツとは異なり、葉は根元というか、基部1点に集まり、20数枚の葉が扇を2枚合わせたように円盤状に広がっています。
 松にはカラマツという落葉樹がほかにはありますが、もともと松は常緑樹で、年中深い緑の葉をつけて目を楽しませてくれます。この変わらぬ緑が、松の縁起のいいところで、お目出度には欠かせない木になっています。
 イヌカラマツは、現在、日本では特別に植えられたものしかなく、現在の木は、いずれも中国から到来したものです。研究施設あるいは特定の公園のみで、たとえば、関西地区では、大阪の万博公園の「世界の森」とか、京都の府立植物園、京大植物園に植えられています。万博公園には18本あり、ほかに「もみの池」に10数本生えています。
 なお、植物には名前の冒頭に「犬・イヌ」という言葉がついているものがあります。たとえば、薬草にはイヌザンショウ、イヌショウマ、イヌセンブリ、イヌハッカなどがあるのですが、この「イヌ」の意味は本来の植物とは、@似てはいるが異なるもの、もしくはA劣るもの、ということで使います。

4.イヌカラマツの樹皮は薬になる
 さきほど、松という植物は薬には縁遠い存在であり、松脂とロジンが医薬品の原料になっていると説明いたしました。このロジンは医薬品では貴重な原料であり、広く使われています。ところが、このイヌカラマツは、マツ科の植物には珍しく、動物、人に薬効のあることが証明されており、その効果は医学論文にて発表されております。イヌカラマツの薬効のある部分は樹皮の部分で、幹および根を使います。
 論文の一つは2004年に発表されたもので、イヌカラマツのエキスをアトピー性皮膚炎の治療に使って、いい成績が得られています。中国安徽省産のイヌカラマツの樹皮と根皮を使ってエキスを造り、これを経皮投与しています。皮膚炎抑制や抗菌性、抗真菌性などに効果が出ています。
 『牧野和漢薬草大図鑑』では、イヌカラマツを薬草・薬木として扱い、樹皮には抗真菌、止血作用があって、湿疹、たむし、神経性皮膚炎などに使うと説明しています。有効成分は現時点では不明となっています。本書では薬として使うときは、樹皮を剥ぎ取り日干しにして、これを粉末にして患部に塗布するか、あるいはアルコールエキスを塗ると説明しております。
 中国では、薬用浴剤としてイヌカラマツの樹皮を使う例が古くからあり、薬用の浴剤での使用の実際が紹介されています。効能は、皮膚科の疾患で、痒み止め、患部洗浄、あるいは皮膚炎などに幅広く使われております。
 松皮を主成分とする生薬入浴剤「延寿湯温泉」は、この中国の薬用浴剤の歴史に基づいて、湿疹、あせもなどの皮膚疾患や、肩のこり、腰痛の治療に使われています。

<参考文献>
・難波恒雄:原色和漢薬図鑑、保育社(1980年)
・牧野和漢薬草大図鑑、竃k隆館(2002年)
・木村康一ほか校訂:新注 国訳本草綱目、春陽堂書店(1974年)
・平沢康史ほか:イヌカラマツエキスの抗アレルギー作用ならびにアトピー性
皮膚炎に対する有効性の検討。日薬理誌2004.124: p.271-283.
・自然観察学習館、カワセミだより、No.42.(2009年)
・日経新聞:2018年3月12日夕刊
・中華薬浴:長虹出版公司、中国・北京(2001年)

Posted by 管理者 at 15時20分

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