2018年05月25日(金)

延寿通信 第178号 2018年6月 [延寿通信]

 世界の四大香辛料の一つ チョウジ

 生薬入浴剤「延寿湯温泉」に配合されているチョウジ末は、丁香(ちょうこう)ともいうのですが、かつてはスパイスの王者として香料の世界では貴重な存在でした。もちろん、チョウジは今でも、香料、香辛料として幅広く用いられており、決して過去の産物ではありません。
 香料として用いるチョウジは、チョウジノキというフトモモ科の樹木の花の蕾です。チョウジノキは太陽の暑熱、適度の湿気、海風のそよぎを必要とすると山崎峯次郎は『香辛料』にて述べています。フトモモ科というのは日本には、もともと自生しない熱帯の植物で、オーストラリア、東南アジアなどに生えています。フトモモ科の代表的な樹木であるユーカリノキはオーストラリア原産ですが、日本では家庭の庭園樹、あるいは公園などの街路樹として植えられています。フトモモという木そのものはインドネシア原産です。
 チョウジは世界の四大香辛料(ほかにコショウ、ニッケイ、ニクズク)の一つで、香料、香辛料(スパイス)として長い歴史を有しております。チョウジが使われ始めたのは、記録では中国の漢の時代といいます。BC202年頃から紀元8年ごろかと言う説がありますが、こういう暮らしに直結した食習慣にかかわる話は起原がはっきりしないものです。ヨーロッパでは紀元前古代ギリシヤ・ローマ時代には普及していたといいます。4世紀のヨーロッパではチョウジは貴重で高価な香辛料でした。
 香料、香辛料(スパイス)を求めて15世紀から16世紀にかけて、香料の産地、東南アジアには世界の冒険的商人の関心が集まりました。香料の産地と言うのは世界の限られた熱帯の小さな島ですので、これが世界各地に広まってゆくには、航海の発達や貿易事業の隆盛、さらにこれらに携わる人材の育成などが必要で、どうしても時間がかかります。しかし、14世紀ぐらいまでは、香料、香辛料を使用するのは王族や貴族などほんの一部だけであって、国民に広くは浸透していませんでした。
 薬としてチョウジを使うのは薬効として、鎮静、鎮痙、殺菌、子宮収縮、胃腸運動機能亢進などの作用があるからで、この場合は花の蕾だけではなく樹皮、根なども使います。しかし、中国の薬用植物の16世紀の古典『本草綱目』では、丁香油を香料として僅かに記載しいるだけで、チョウジは薬としては普及していなかったためか、本格的には取り上げていません。

1.チョウジの産地
 香料の産地である香辛料諸島はインドネシアのモルッカ(マルク)諸島が該当し、ここのハルマヘラ島のテルナテが中心になっています。このあたりは諸島といわれているだけにたくさんの小さな島が集まっています。この地、スパイスアイランド(香辛料諸島)へは、15世紀、ヨーロッパに始まった大航海時代に、西欧諸国の探検家は船団を組んで莫大な労力と時間をかけて、はるばる集まってきました。ここでは、香料を求めて出かけてきた冒険家たちが香料奪い合いの血みどろの戦いを繰り広げたといいます。
 チョウジは、本来は調味料ですが、香辛料として、薬として商品化されて、需要は世界に広がってゆきました。チョウジは中国の貿易品で、実際には中国では産出しないのですが、自国産出品のように見せかけて出荷していました。この時点では実際の原産地は秘密になっていました。チョウジを世界に広めたのは中国人とインド人です。
 産地は上述のようにインドネシアのモルッカ(マルク)諸島ですが、ここから、どのように中国へ出て行ったのか、この時代のこと、貿易の記録はなく、明らかではありません。東南アジアとはいえ、チョウジの原産地は特定の小さな島であり、近いけれども中国からは簡単に寄り付くことは出来ません。しかし、当時の中国は漢の時代から南海への進出は始まっており、この地帯の情報は集まっていました。漢の時代の前、秦の始皇帝は天下を統一して海外への憧れもあって、関心を深めていました。始皇帝は、不老不死の薬を求めて近辺の海外へ人材を派遣し、交易のきっかけを得ることに意欲を持ち、いわゆる南方貿易もこの頃に始めています。当時の記録では南方諸国、アラビアあるいはセイロン島なども中国の貿易相手国として登場しています。

2.チョウジの歴史と香り
 中国では、漢の時代、2000年前ですが、宮廷で高官が天子に具申する場合には、吐く息の香りをよくするためにチョウジを口に含むことが決まりになっていました。チョウジの使用例としては、この話はかなり古く、口臭防止剤としての役割が、チョウジの歴史の始まりのように扱われています。
 しかし、17〜18世紀ごろは化粧水、香料にも使われ、時には伝染病予防にも用いられました。伝染病の予防では、特にコレラですが、この時は医師には特別の予防服が考案されて、たとえば、真っ黒な皮革製のガウン、皮手袋、革靴、皮製のズボンと革製マスクで、両目には丸い穴があってガラス製、鼻には鳥のくちばしのような器具を用い、この器具には香辛料を詰めていました。それはチョウジとニッケイで、エキスを海綿に染み込ませたものです。
 当時は伝染病は空気伝染するものと考えられていましたので、このように厳重に外の空気を遮断する工夫が採られていました。街の中、あるいは住宅でも、チョウジやオレンジ、レモンの香りを漂わせることは病気の伝染防止に役立つと考えられていました。また、香りのいい植物のエキスを身に付けていると病気にかからないという言い伝えもあり、頻繁に使われました。
 シエクスピアの作品では衣装の防虫にチョウジを使う場面が出て来ます。 今でもチョウジは衣服の防虫にいいということで衣装箪笥にぶら下げる人はいます。
 そのほか歴史的に見たチョウジの利用では、吐き気、船酔い防止、あるいは筋肉痛の治療に、さらに、インドネシアでは紙巻タバコに配合するとタバコの香りが良くなるということもあって、使われていたと言うことです。15世紀のイギリスでは、耳の調子悪い時に使ったといいますが、これはチョウジの香りというよりも、精油揮発成分の利用になるのでしょう。

3.日本のチョウジ
 わが国の医薬の歴史は現実に残されているものから取り上げるとすれば、奈良時代の正倉院にある薬物をまず見ることになります。そのためには、正倉院薬物の記録である「種々薬帳」が最初にあげられます。この「種々薬帳」では、漢方薬のダイオウ、ニンジン、カンゾウなどがあり、さらに香辛料ではコショウ、ニッケイなどが見られますが、チョウジは挙がっていません。しかし、現物が正倉院に残っているといいます。
 また、源氏物語には丁子染めという文字が出てきますが、これらの時点では、中国から薬用植物の書物は日本にはいろいろ来ていましたので、本草家以外にもチョウジの名前ぐらいは知られていたのでしょう。しかし、当時は貴重品として僅かに伝わった程度で、本来の香としての利用は、もっと後です。チョウジが香の材料として日本に来たのは、欧州に比べてだいぶ後で、江戸時代以降、17世紀中ごろかと言われています。
 チョウジが多く使われる料理の中味は、日本と西欧とはまったく異なります。チョウジは西欧では肉料理には欠かせない香辛料ですが、日本の料理では牛や豚の肉類を油を用いて焼いて使うことがほとんどなかったので、料理にチョウジを使いたいと言う声は日本では大きくはなかったようです。
 室内の薫香料では、古来、日本ではビャクダン、ジンコウなど仏教関連の香につながる東洋の香料が広まっており、わざわざ西洋の香りに飛びつく必要はありませんでした。たとえば、ラベンダーと言うのは西欧では、代表的な香料として暮らしに広く使われていますが、日本へ来たのは近代洋風の風向きになってからで、江戸末期から明治のはじめです。
 わが国では、チョウジは高価な香料として大事にされ、チョウジ油、チョウジ紙、チョウジ染め、チョウジ風炉などが生まれ、香りを活かして新たな用途を生みだしました。
 たとえば次のような商品があります。
・チョウジ油:チョウジを水蒸気蒸留して得られたこ香料で、化粧品として、 
       薬味料、薬用で利用された
・チョウジ紙:書に用いる装飾料紙で淡紅色、紅褐色の紙をつくる
・チョウジ染め:チョウジの蕾を煎じてその益を染料として使う。薄茶色
・チョウジ風炉:香炉にてチョウジを煎じ香気を出し、室内の防臭に使う
・チョウジ袋:匂い袋、チョウジを詰めた小袋で着物の裏に入れた 

4.チョウジの風呂
 チョウジの香りを活かしたチョウジ風呂は、爽やかな香りで入浴を楽しませてくれます。チョウジ風呂は汗臭いからだの悪臭をすっかり取り除き、回りを爽やかな雰囲気にするといいます。丁子風呂に入った人は、爽やかになり快適であると、述べています。
 宗教的な行事の一つとして、修行僧が密教では浄衣を着る前に、チョウジを入れた風呂に入り、口にチョウジを含み、さらに衣類を丁子の香で清めるということがあったそうです。
 京都には丁子風呂町(ちょうじぶろまち)という地名があり、今も健在です。この町は、京都市上京区にあって、市内の中央、元の府庁本館の近くです。由来は江戸時代、ここに「丁子風呂」という銭湯があったからだそうです。この時点では、チョウジは日本に来たばかりですので、早速、これが風呂に使われたことになります。チョウジの風呂は、歴史的には古く、チョウジの日本への渡来が、この目的であったのではないかという説もあるほどです。
 このチョウジの役割を、そのまま受け継いだのが生薬入浴剤「延寿湯温泉」で、配合されているチョウジ末が浴槽にて効果を発揮します。しかし、「延寿湯温泉」には、ほかにも芳香性生薬が含まれていますので、残念ながらチョウジ単独の香りを感じ取ることは難しいようです。
 丁子風呂と、よく似た言葉に「丁子風炉」がありますが、風炉は「ふろ」とも読みます。通常は「ふうろ」で、これはチョウジを用いた香炉です。チョウジを燻らせて室内に香りを漂わすために使います。

<参考文献>
・難波恒雄:原色和漢薬図鑑、保育社(1980年)
・牧野和漢薬草大図鑑、竃k隆館(2002年)
・木村康一ほか校訂:新注 国訳本草綱目、春陽堂書店(1974年)
・山田憲太郎:スパイスの歴史、法政大学出版局(1979年)
・山崎峯次郎:香辛料 1-4、ヱスビー食品梶@(1973年)

Posted by 管理者 at 09時35分

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