【延寿通信】 2018年09月25日(火)

延寿通信 第182号 2018年10月

薬湯・薬浴に使う植物

 大阪JR環状線、桜の宮駅近くの銭湯の前を歩いていたら、「今日はトウキ風呂です」という張り紙が出ていました。この銭湯は使用する薬用植物を、毎週のように材料を替えて、薬湯に新鮮味を出しています。今日は、何湯かなと、この銭湯の案内板を見るのを楽しみしています。トウキは「当帰」という古来の薬用植物で特有の香りがあって血液の循環を改善します。
 薬湯・薬風呂というのは、東洋独特の医療方法であるといいます。夏の土用に桃の葉を入れるのはアセモの治療に効果あり、5月5日の菖蒲湯は邪気を払うのにいい、さらに、冬至の日の柚子湯は年中の息災の祈りのためと、昔からの言い伝えがあって、薬湯は今日も大事に引き継がれています。
薬湯では、いろいろな植物が使われます。わが国の薬湯では、桃の葉やヨモギ、あるいはショウブなどがお馴染みで、時期になるとスーパーストアには、風呂に入れる植物が並んでいます。一方、民間で発展してきた農家の薬湯は、これまた種類豊かで、今日の薬湯の基盤を作っています。しかし、近郊農家の薬湯は、宅地造成で山野が遠くなったこともあって、山野で採取してきて、野草を風呂に入れるというのは、昨今はやや減ってきたといいます。
 これが中国ともなると、薬浴の研究も進み、過去の実績も豊富であることから、植物の種類は多種多様です。これについては前回に本欄にて取り上げました。今回は、わが国の様子を紹介いたしましょう。
 都会の家庭は、商品化された浴剤を使用する場合が多いのですが、時には、実際に山野の植物を用いた風呂もお奨めです。どんな植物があるか、風呂にかかわる書物あるいは図鑑から、該当植物を拾ってみました。

1.武田勝蔵著『風呂と湯の話』から
 武田勝蔵著『風呂と湯の話』、この本は風呂解説書としてはやや古く、1967年に出版されました。この時点では、家庭の風呂、銭湯の事情も今日ほど普及していない時代で、まだ、ゆとりのなかった頃です。本書は我が国の風呂の歴史から、世界の風呂の様子まで、風呂と入浴を広く捉えています。薬湯というのは、この書の中で大事な項目であり、詳しく説明しております。ついでながら、風呂に関する古典といえば、藤浪剛一著『東西沐浴史話』人文書院(1944年刊)があり、世界の風呂の歴史を簡潔に紹介しています。
 さて、この『風呂と湯の話』に挙がっている植物を取り上げます。この書では植物を入れた風呂を薬湯と題しています。
ここでは伝統的な薬湯を対象としており、桃の葉をはじめとして、ショウブ、ユズが最初に出てきます。また、古い話では、鎌倉時代の五木八草湯、五木一草湯、五木湯の詳しい説明があります。これらはわが国の薬湯の発祥につながり、今日まで大事に受け継がれてきました。五木とは、梅、桃、柳、桑、杉という場合、あるいは槐、柳、桃、桑、梶をいう場合があります。八草は明らかではなく、ヨモギ、ニンドウがあげられていますが、別の説では、クコ、ミカン、ウド、ソバ、ハスなどをここに並べることがあります。

2.『お風呂大好き』の場合
 『お風呂大好き』という本は、これまでも、本欄で時々取り上げましたが、いかにも現代風の本です。本書では、古来、伝わってきた、桃の葉、菖蒲、柚子のほか、最近の新しい感覚で薬湯を見てゆこうというので、いろいろな植物が出てきます。しかし、この著者は薬湯とは限定しないで、植物の持つ特徴を生かして風呂にいれて、香りや色を楽しむという趣向を奨めています。
『お風呂大好き』の著者、早川美穂さんは家庭の浴槽にどんどん植物を入れて、入浴を楽しんで下さいと言って、季節の植物をあげています。著者は入浴のベテランで、楽しい入浴のために、浴室の構造から、入浴時に使う道具類はじめ、入浴剤も詳しく説明しています。
 この本の中「季節を楽しむお風呂」の項目にて推奨されている植物は次の通りです。これらの植物を入れた風呂をこの本では薬湯であるとは書いていません。たしかに、ご覧のとおり、ここにあげられた植物は、薬というよりも野菜や果物、樹木などが主体であって、多彩です。

  1月 松       7月 桃
  2月 大根           8月 ハッカ
  3月 ヨモギ  9月 菊
  4月 桜 10月 ショウガ
  5月 ショウブ         11月 ミカン
  6月 ドクダミ    12月 柚子 

 風呂では、植物に含まれる精油が皮膚から吸収されたり、皮膚を刺激するだけではなく、揮発して鼻やのどから体内に入るからと植物風呂独特の効き目を説明しています。

3.『お風呂の愉しみ』から
『お風呂の愉しみ』(飛鳥新社発行)著者前田京子さんは、楽しい風呂のために石けん、シャンプー、リンスなどを研究されています。それぞれに詳しいレシピが紹介されています。その中で入浴剤としてあがっているものに絞ってゆきましょう。著者は天然素材に注目されていますが、種類は豊富です。
 問題は使い方ですが、本書には丁寧な説明がありますので、どうぞ原本をご覧下さい。日本酒、ビール、ワイン、シャンペンは植物ではないのですが、異質ですので、取り上げておきました。口にしたいものばかりですが、果たして、アルコール類は湯の中で肌に、どのような反応を示すのでしょうか。
 バスソルトというのは、岩塩、海塩の結晶約20gに香油を染み込ませたもので、これを浴槽に入れます。良き香りと、塩の保温効果がきいています。ジュニパーベリーはネズの実で、ヒノキか松のような香りがして、肩こりや筋肉痛に効くといいます。
 にごり湯というのは、水に溶けない材料を使いますので、ふろ釜の手入れに要注意です。これらの材料は肌の保湿、適度の脂分の補給に効果あり、特に冬が出番といいます。

@バスソルト
 ローズ、ラベンダー、ジュニパーベリー
Aにごり湯の材料
 アーモンド、ココナッツ、米ぬか、ミルク
Bそのほかの入浴剤の材料
 ・はちみつ、くろみつ、糖みつ、
 ・日本酒、ビール、ワイン、シャンペン、
 ・乾燥ハーブとして、ミント、ラベンダー、バラ花びら、
ローズマリー、
 ・ジャーマンカモミール、
 ・柚子、みかん、オレンジなど果実の皮

4.『ウチ風呂の作法』から
 『ウチ風呂の作法』(潟Gンターブレイン発行)という本では、珍しく古代の風呂から、世界の風呂まで、さらに現代のわが国の入浴事情にも触れて、風呂、入浴を広く取り上げています。まさに風呂の百科事典という感じで、風呂の好きな日本人向きの本ということになりましょう。内容はそれだけに簡潔であり、豊富なイラスト、写真もあって、読みやすくできております。
 この本の中に「季節湯に入ろう」という1章があります。丁寧に出来ておりますが、その取り上げた植物を見たら、なんと『お風呂大好き』の記事を引用しており、内容は全く同じでした。
 本書では、これとは別に、「たとえばこんなアレンジ湯」という項目があって、次の食品を挙げています。これはユニークです。
 リンゴ、レモン、セロリ、キュウリ、パセリ、ミツバ、ワカメ、ニンニク、
 ココナッツ。
 このほかに、本書では、『お風呂の愉しみ』と同様に、植物以外に飲料の牛乳、紅茶、コーヒー、日本酒、ワインなども入浴剤としてあがっています。

5.『牧野和漢薬草大図鑑』掲載の植物
 この植物図鑑には内外のたくさんの薬用植物が並んでいますが、その中で、薬湯にお奨めの植物を拾ってみました。さすが植物図鑑だけあって薬用の植物を網羅しております。薬湯のお決まりの本とは異なって、登場する植物は新鮮です。本書の掲載順に取り上げ、簡単に本書の説明を引用します。材料にはそれぞれ詳しい説明がありますので、機会あれば、本書をご覧ください。

エノキ   樹皮を使う、中風にいい
クスノキ  神経痛、しもやけ、打撲傷などに葉を使う
ヤブニッケイ 刻んだ樹皮や葉を布袋に入れて浴槽に投ずる。腰痛、あせも、
      リウマチにいい
ダイコンの葉 打ち身、くじきにもいい。ヨーロッパではもともと大根は薬用
      植物であった。
スモモ   葉を布袋に入れて浴槽に入れる。あせもにいい
ユズ    果実を使う
ウンシュウミカン 食べた後の皮を天日で干して、これを浴槽に入れる。血行
      を良くし、肌をつややかにする
ゴシュユ  果実を使う。気分を落ち着かせる
ウド    茎、葉を陰干しして使う。肩こりや痔にいい
ヤツデ   葉を煮出した液を、袋ごと浴槽に入れる。リウマチにいい
トウキの葉 婦人病用に使われる
リュウノウギク 全草を使う。冷え症、腰痛、リウマチ、神経痛
オロシャギク  花を布袋に入れて、浴槽に入れる。 リウマチにいい

<参考文献>
武田勝蔵:風呂と湯の話、塙書房(1967年)
早川美穂:お風呂大好き、叶カ活情報センター(2003年)
青柳昌行編:ウチ風呂の作法、潟Gンターブレイン(2012年)
前田京子:お風呂の愉しみ、株鳥新社(1999年)
岡田稔他編:牧野和漢薬草大図鑑、北隆館(2002年刊)

Posted by 管理者 at 09時00分

ページのトップへ ページのトップへ

検索


メニュー

最近の記事

RSS1.0

[Login]


powered by a-blog