2018年11月26日(月)

延寿通信 第185号 2018年12月 [延寿通信]

米ぬかが主役

--化粧石けんの出現するまで

 入浴に欠かせない化粧石けんは江戸時代には一般には普及していませんので、身体を洗うのには米ぬかを使いました。一般の人が化粧石けんを使い始めるのは明治の後半になってからで、100年ぐらい前のことです。顔洗ったり、身体を洗うには、わが国では長い間、米ぬかのお世話になってきました。
 石けんの代わりというと、米ぬかが真っ先に挙がりますが、そのほかに、ふのり、海草、ハーブ(ローズマリー、カモミール)、お茶なども出てきます。
 歴史的に、使用例のもっとも多いのは米ぬかです。
 米ぬかには、いい香りがあるわけでもなく、布袋にやや油っぽい粉末を入れて身体を擦るのですから、鬱陶しい仕事だったことでしょう。爽やかな香りのいい石けんで泡を身体じゅうにつけて洗うというのとは、隔世の感ありです。
 米ぬかの洗浄効果はさほど大きくはなく、これを布袋に詰めてごしごし身体を洗うのは、今日の入浴の楽しさからは程遠いものでした。
 米ぬかというのは、玄米を精白して白米にする時に出る玄米の表面の層です。これが精米の工程では淡褐色の粉末となって大量に排出されます。米の栄養素の大部分が、この米ぬかに含まれています。米ぬかは、油っぽいしっとりとした粉末で、精米する時には大量の米ぬかが出ますので、精米業者はこれを取り出し、袋詰めにして販売します。
 冒頭にも書きましたが、わが国で化粧石けんが使われるようになるのは明治10年代、19世紀末ですが、この時期、一般の人は、まだ大部分がぬか袋であったといいます。化粧石けんを使った後の爽やかな香り、感覚を、江戸時代の人は味わうことが出来ませんでした。

1.米ぬかとは
 真っ白に精白した米は、どこの家庭にもあって、しかも毎日のように顔合わせしています。もっとも、最近はやや昔に戻って玄米をわざわざ求めて、これを使用のつど、精米してご飯を炊くという通もいるようです。やや昔といいましたのは、1945年から1950年にかけて、厳しい配給米時代を体験した人たちの中には、精米が入手しにくかったので、玄米を手に入れて自分で精白していた人もいました。
 玄米というのは、稲から収穫したばかりの米で、精米工程を経ていませんので、真っ白どころか、うす黒く、まだ薄い皮、膜をかぶっています。この膜というのは、外から果皮、種皮、糊粉層の3層から出来ています。米の栄養成分はこの3層に集中しております。精米というのはこの3層を削り取ってしまう工程で、精米の時は、胚芽もとってしまいますので、これも米ぬかに移ります。この精米工程では米の栄養成分の9割が失われてしまいます。
 米ぬかと精白米の成分を比べてみると、重要な栄養成分の大部分が米ぬかにあることが分かります。
 米ぬかの成分には、例えば、腸内の掃除をしてくれる食物繊維は精白米の40倍含まれ、ビタミンB1、ビタミンEは精白米の100倍以上あります。この食物繊維は消化吸収されにくいので大腸内にて、腸壁を刺激して、運動を活発にして腸内環境をととのえ、腸の内側まできれいにする作用があるといいます。米ぬかはまさに、米の栄養成分の宝庫です。この大事な米ぬかを、何とか暮らしに活かして使うことが出来ないか、いろいろ工夫・研究されています。
 米ぬかを古来、洗顔に、身体を洗うのに使ってきたのですが、その効果、使った後の感じはいかがであったか、興味あるところです。化粧石けんの出現する以前、歴史的に何百年と米ぬかは使われてきたのですから、実績は十分あります。

2.石けん以前に洗浄用として使われたもの
 身体の、あるいは衣料の汚れを落とすのに使われたのは、米ぬかだけではなく、身の回りというか山野にあるものなどが広く利用されていました。そのいくらかの例をここに紹介します。
@ 木灰、わら灰、海草灰、尿、鶏糞などアルカリ性のもの
 もっとも古くから使われていた洗浄剤は灰汁(あく)で、これは紀元前から使われていたといいます。この灰汁は木の灰を使い、江戸時代にはこの灰を使う専用の桶があったようで、これを「灰汁桶」と呼んでいました。桶に水を満たして、木灰をいれ、透明の上澄み液(アルカリ液)を洗浄に使い、使用後に底の栓を抜きます。江戸時代のみならず、つい先ごろ、昭和の時代になっても、1945年ごろ、物質不足の時代には、この桶が洗浄用道具として各地で使われていたそうです。
 ここにあげたアルカリ性の材料は、汚れ物質である油を乳化したり、タンパク質を分解して、肌や、衣料などについている汚れ物質を本体から引き離す性質があり、これを浮遊物として除去します。 
A洗剤として使われる植物
 洗剤には泡立ちの良い植物が選ばれました。その代表的なものが、サイカチ、ムクロジ、米のとぎ汁、灰汁です。
 サイカチはマメ科の植物で本州各地の山野にある落葉高木です。この木にはサイカチサポニンが含まれており、薬用では去痰、利尿、消炎に使われております。使用する部位は果実、とげ、種子で、これらは石けん、洗剤の代用になり、入浴剤としても使われるこのもあります。サポニンはさやや、種子に多く含まれています。サポニンの含量が大きいために、薬用で続けて服用しているとサポニンの浴血作用で貧血を起こす場合があるので、要注意といいます。
 ムクロジはムクロジ科の植物で、落葉高木です。大きいものは15mを超えるほどで、山林にあって、民家に植えられたりして、本州南部から四国、九州などで見られます。ムクロジの果皮には「延命皮」という名前までついております。この延命皮は、洗剤のほかに、薬用でも使われています.多量のサポニンが含まれており、強壮、止血,去痰などに使用されます。
 植物図鑑の説明では、「かつては洗剤の代用として、洗髪、洗濯、書画の汚れ落としに用いられた」とあります。ついでながら、このムクロジの実は、正月用の羽根つきの玉、数珠に使われているとあります。
 サイカチ、ムクロジ、灰汁の洗浄力については、東京家政学院大学の研究報告があり、これらの洗浄力について、サイカチは濃度3〜4.5g/ℓ、ムクロジ
2〜3g/ℓでは標準洗剤の約50%の洗浄力があると報告しています。

3.洗浄以外の米ぬかの用途
 米ぬかは、今日では洗剤の代用には使いませんが、栄養成分の多いことから
いろいろの分野で利用されています。 
(1)肥料
 米ぬかの栄養成分を活かして使う肥料は、農業分野で重んじられています。米ぬかは有用な微生物を育て、病原菌の発生を抑え、さらに雑草も抑える効果があるといいます。米ぬかは栄養成分豊富なので、肥料として使うのは有効です。腐敗させて使うほうが効果大のようです。わざわざ、そのために貯蔵の箱を用意して、腐葉土や生ゴミなどと混ぜて、時間かけて腐敗させて肥料にする場合があります。
(2)ぬかづけ
 米ぬかはリン酸、ミネラル、ビタミンに富むので微生物の発酵に有効で、酵母や乳酸菌など有効な微生物が増加します。ぬかづけは日ごろの食卓で、味わっておられる方も多いことでしょう。特にぬかづけには凝っているというか、独特の方法を用い美味しい味を生み出している人もあって、ご家族に喜ばれている女性も多いようです。
(3)サプリメント
 米ぬかの栄養成分はすこぶる豊富ですので、これを捨ててしまうのはもったいない話です。サプリメントとして米ぬかを活用しようというのはいいアイデアです。サプリメントとして使う場合ですが、精米工業会の資料によりますと、まず、「煎りぬか」を作りましょうと書いています。「煎りぬか」というのはフライパンで弱火で5分ぐらい煎ることです。キツネ色にすると香りもよくなるそうです。この「煎りぬか」に、お好みの材料、塩、青海苔、ゴマなどを加えて「ふりかけ」を作ります。

 かつての石けんの代用品の米ぬかは、豊富な栄養成分を活かして農、食の世界にて大活躍です。

<参考文献>
・日本精米工業会 ホームページ:「お米マイスター」による。(2018.10)
・(社)農山漁村文化協会編:米ぬかを使いこなす、(社)農山漁村文化協会刊
 (2000年)
・岡田稔監修:牧野和漢薬草大図鑑、竃k隆館(2002年)

Posted by 管理者 at 11時20分

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