【延寿通信】 2008年06月06日(金)

延寿通信 第58号 2008年6月

日本人は世界一のお風呂好き?

-「風呂と日本人」を読む


「日本人は世界一の風呂好き民族である」というのですが、いかがでしょうか。これは最近、刊行された文春新書『風呂と日本人』の帯の宣伝文句です。
たまたまこの本の出たころ、筑摩書房のPR誌『ちくま』(2008年5月号)に、次のような本の広告が出ていました。
『風呂とペチカ―ロシアの民衆文化』(群像社、2008年4月発刊)は「ロシアの人はお風呂が大好き。ペチカや風呂小屋に入って蒸気を浴びて汗をかき、からだをたたいてリフレッシュ。・・・・日本初の本格的ロシア風呂案内」とありました。
風呂の好きな民族は、何もわが国だけではなさそうですが、たしかに日本人は世界一の風呂好きなのか、本書『風呂と日本人』を読んでご判断ください。
『風呂と日本人』(著者:筒井功、文藝春秋社、2008年4月)は先日、朝日新聞の書評欄にて紹介されました。今回は本書の一部をここでご紹介いたしましょう。

1.風呂の発端
 風呂の始まりというのは、その端緒を見出すことがなかなか難しいのです。水を浴びて身体を洗う、湯に浸かるのは、ある日突然、始まるものではなく、日本のどこかで、生活の習慣としてあちこちに生まれる、そういう性格のものだからです。日本の各地には古くから温泉があって、奈良時代の風土記に記述されているように、歴史以前からの習俗として温泉は利用されています。また、暑いときに、あるいはからだを洗うために、川や海に浸かるのは、これまた人間の自然の行いであり、水を浴びて身体を洗う、湯に浸かるのに独自の方法にてするような行為でもありません。
 そういう状況のなかにあって、あえて風呂の始まりを追及するということは大変な仕事です。発端を探るには、先ず、用語をきちんとしておかないと混乱します。『風呂と日本人』の著者、筒井功さんは、はじめに風呂の言葉の説明に、ページを割いています。
本書では、風呂のルーツを探るというので、著者は全国をくまなく歩き、現存する風呂や、風呂の遺跡を訪ねます。それは、それは膨大な仕事です。この本の特徴は、この風呂の探訪にあるといってもいいでしょう。

2.風呂とは何か
 今日、われわれの暮らしで風呂といえば、浴槽の湯に浸かって、身体を温めて汗を流し、出て、洗い場で汚れを落とすタイプを頭に浮かべるでしょう。家庭の風呂、銭湯、温泉のいずれをとっても、大部分の方は温湯タイプの風呂を思い起こすことにさほど抵抗を感じません。なかにはサウナのような蒸気浴を頭に浮かべる人、あるいはシャワーをざっとかぶって、これにて風呂を済ませてしまう人もいるでしょう。
しかし、江戸時代までは、「風呂」というのはサウナ式の蒸気浴・蒸し風呂のことをいい、今日の浴槽に湯に浸かるのは、「風呂」ではなく、「湯」といい、「風呂」と「湯」は、はっきり区別されていました。ここでは誤解を招くといけませんので、江戸時代以前の風呂を取り上げる場合には、「風呂」と「湯」のようにカッコをつけることにします。
したがって、風呂の歴史をたどるには、「風呂」と「湯」を別々に取り上げて考えないとややこしくなります。
わが国の「風呂」のルーツは蒸気浴であるというので、著者は、このタイプの「風呂」を中心に取り上げ、歴史的、地理的な変遷を調査しています。
この蒸気浴、「蒸し風呂」に入るには独特の設備、構造を必要とします。遺跡として蒸気浴のための構造物が残るので、ある程度、起源を探ることを可能にします。

3.蒸気浴とは
 さきほど、蒸気浴の例にサウナと申し上げましたが、蒸気浴はこれまで本欄ではほとんど取り上げておりませんので、簡単に説明しておきます。
蒸気浴は蒸し風呂ともいわれて、湯に浸かるのではなく、一定の空間に蒸気を満たして、そこで身体をあたため、汗をかいて蒸気部屋から出て湯や水をかぶり、洗います。
蒸気の発生方式にはいろいろあって、歴史的な方法は部屋というか、囲まれた室(むろ)の中で火をたいて、灰を掻き出した後に、床になっている石に水をかけ、この上に濡れたむしろを敷いて横たわります。室の中は蒸気で満々です。水をかける代わりに海水を使うと健康に好いというので、海辺に近いところに「風呂」用の室の作られる場合は多いのです。蒸気は通常は焚き火にて何時間もかけて石を真っ赤になるほど焼いて、水をかけます。このような「風呂」を石風呂と呼んでいますが、ほかに岩風呂、あるいは釜風呂などと呼ばれる場合があります。ただし、釜風呂というのは由来が石風呂とは若干異なるようです。蒸気浴をするには蒸気を満たすための密閉した小部屋(室)を準備しなければなりません。そこでは材木や、枝、葉、海藻などを大量に焚くので、不燃性のがっちりした構造が求められます。

4.わが国の風呂の発端はどこか
 著者は四国の海辺の「風呂」、ここでは石風呂の跡をたどり、香川県で、あるいは瀬戸内海の島々で、たくさんの石風呂、大部分は遺跡を発見します。遺跡というのは、現在は使われていないで、石で組んだ室、岩をくりぬいた室などをいいます。写真で見ると頑丈な構造物です。たとえば、本書の最初に出てくる香川県さぬき市の塚原の「から風呂」は奈良時代の僧行基が築いたという伝説があり、文献には江戸時代1749年に使われていたというのが出てくるそうです。この「風呂」は、2007年3月まで利用されていました。香川の石風呂では古いものでは15世紀半ばにはあったといいます。
 日本で一番有名な石風呂というのは、愛媛県「桜井の石風呂」で江戸時代初期に作られており、現在も夏場は毎日、火が入り、多くの人が利用しております。
 伊勢も「風呂」の多い土地であって、たくさんの風呂跡が残されています。江戸時代初期に、最初の銭湯が江戸に生まれたといわれておりますが、この銭湯には伊勢の人物がかかわっております。
筆者は各地の残された「風呂」を調査して、発汗浴というタイプに集約し、次のようにこれを分類しております。
    
発汗浴→熱気浴と蒸気浴
熱気浴 
 炭焼き型(香川県に例あり、以下同じ)
 岩窟型(愛媛県)
 石積み型(山口県)
 オンドル型(大分県) 
蒸気浴
 伊勢風呂(三重県)
 塩石(大分県)
 温泉熱型(大分県)
  寺院の浴室(奈良県)

 寺院の浴室は、奈良時代には温湯方式、すなわち、浴槽に湯を入れる今日の銭湯タイプであった形跡もあり、どちらのタイプであったのかは、はっきりしないといいます。著者は日本の風呂の始まりで文献・史跡で確認できるのは中世以降であると述べており、奈良時代のころに朝鮮から伝来したのではないかと推測されていますが、それがどのようなルートで来たかは不明になっております。

5.日本人の風呂好き 
各地の風呂という字のつく地名を中心に、著者の探訪は続くのですが、結局、わが国の「風呂」発祥の地、時代は、となると、本書の記述は必ずしも明快ではありません。さらに、なぜ、初期には石風呂が広く出回っていたのか、残念ながらはっきりしません。「風呂」の設備・構造は単純であり、焚くのが手軽というか、扱いやすかったためではないかと推察されるのです。温湯方式となると、給水装置、湯を張る桶というか、浴槽、それに何よりも釜の発達、釜は鉄の巨大な鋳物であり、これがないとできませんので、初期の段階では農山村には縁が無く、勢力のあった一部の寺院に限られます。
各地の農漁村の人たちが、それぞれ手軽に蒸気浴で身体を休め、清潔な暮らしを楽しむために、「風呂」施設の普及を考え出しました。各地でこれが展開されたことを本書で知り、日本人の風呂好きがここに芽生えたのかと思いました。
本書では歴史上は蒸気浴の「蒸し風呂」があくまでも風呂の主役であり、中世以降に「温湯浴」が出始めたというストーリーになっており、わが国の風呂の元祖は湯浴み方式ではなく、蒸し風呂であり、その遺跡が意外と多いことを教えてくれます。
蒸気浴の「風呂」には、一見入浴剤は無縁のように思われますが、そうではなく、江戸時代には蒸気を発生させる床にヨモギを敷いたり、ショウブのような芳香を出す薬草を並べて香りを漂わせる蒸し風呂がありました。入浴剤 延寿湯温泉のような生薬風呂には長い伝統があります。香りを大切にする入浴剤の誕生はここにあったのかも知れません。
本書『風呂と日本人』は全国各地の「風呂」の遺跡、地名などが実に細かく調査されています。本書を読めば「風呂」にかかわる懐かしい土地、「風呂」の跡に、出会う機会があるかもしれません。お風呂大好き、歴史地理も大好きという方には興味深い本です。


<参考文献>
筒井功:風呂と日本人、文藝春秋社(2008)
早川美穂:お風呂大好き、生活情報センター(2004)

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【延寿通信】 2008年05月09日(金)

延寿通信 第57号 2008年5月

メタボリックシンドロームと入浴


延寿通信  57号  2008年5月  

 健康にかかわる話題では、このところ急にマスコミで取り上げられるようになったのが、メタボリックシンドロームです。この名前は難しくすっきりしませんので、お年寄りの間では「メタボ」と略されていますが、しかし、最近の調査では成人で中味まで知っている人は80%を超えており、残りのほぼ全員が言葉だけは知っていると、回答しています。
 メタボリックシンドロームは、生活習慣病とは深いつながりがあります。生活習慣病は名称のとおり病気の名前ですが、メタボリックシンドロームというのは病気の名前というよりも、本来の意味は将来、生活習慣病になる可能性の高い状態・症状にあるので、健康管理に一層注意するようにという、一種の危険信号の出ている状態をいいます。
 メタボリックシンドロームと入浴と言えば、直接、かかわりがあるとはいえませんが、危険信号を緩和する策の一つとして、お風呂をご利用いただく機会がありますので、ご参考にしていただければと思います。

1.重大な病気の危険信号 
糖尿病、高血圧、がん、脳卒中、心臓病はかつて成人病といわれていたのですが、成人病という名前ですと、歳をとれば誰でもかかる病気と、思われがちであったので、そうではなく、歳をとっても生活の仕方で防止できる病気である、というので、成人病は生活習慣病と変わりました。病気の名前は、世の移り変わりによって変わってきます。
生活習慣病は国民医療費の大半を占め、さらに成人の健康にも重大な影響を及ぼすので、これらの病気の予防に行政は力を入れて、対象となる成人がもっとこれらの病気について知り、予防に関心を持つようにというので生まれたのがメタボリックシンドロームです。これは、中年以降の人たちへの健康増進のための大きなキャンペーンなのです。
メタボリックシンドローム(metabolic syndrome)というのは、用語の源はもともと英語で、直訳すれば「代謝の症候群」であり、体内に取り入れた食事がエネルギーや体内の必要な物質に変わってゆく過程における異常な状態であり、現在は日本語としては「内臓脂肪症候群」が、一般に使われております。
メタボリックシンドロームというと、肥満がすぐ浮かび上がるのですが、この肥満も厳密には「内臓肥満」であって、内臓を取り巻く過剰な脂肪が対象になり、皮下にたまる脂肪とは違います。代謝過程での異常な状態とは、体内で余剰となった成分が脂肪として蓄積され、とくに内臓の脂肪細胞が肥大化した状態をいいます。この肥大化した脂肪細胞が悪玉の物質を分泌して、血圧を上げたり、糖尿病や動脈硬化になりやすくなるために、病気につながってゆきます。

2.肥満と脂肪
 体内の脂肪は、それが存在する場所によって、皮下脂肪、内蔵脂肪に分かれます。体内の脂肪は、通常は男性は体重の25%以下、女性は30%以下であって、それ以上になると肥満ということになります。
肥満のデータには体格指数(BMI)があって、体重と身長の数字から算出し、
25以上を肥満といいますが、実際のメタボリックシンドロームの診断では腹の周り(へそ周り)の数字を基準の一つとして用います。参考までに、男性は85cm以上、女性が90cm以上です。
メタボリックシンドロームでは先にも述べたように、内蔵脂肪が悪玉として問題にされます。尻や太ももになどにつく脂肪は皮下脂肪であり、とくに女性で話題になりますが、皮下脂肪はホルモンの関係もあって男性よりも女性につき易い性質があります。皮下脂肪はいったんつくと簡単には減らないものですが、ある程度は皮下脂肪が無いと、寒さに耐えられず、また、外部の衝撃から身を守る役目もありますので、減らすのもほどほどにということになります。
 内蔵脂肪は、どちらかといえば男性に蓄積されやすく、内蔵そのもの、腹部の腸の回り、あるいは腸の空間に集まるので、腹が出てきます。尻の大きくなる皮下脂肪型と比べると肥満の形は異なってきます。内蔵脂肪は、皮下脂肪に比べて、脂肪の出入りが容易になっていて、増減は生活の習慣、訓練によってコントロールされます。
 脂肪と言うのは、人間には欠かせない栄養素であって、エネルギー源だけではなく、体内組織でも重要な役目を担っておりますので、脂肪そのものを敵視してはいけません。
 
3.メタボリックシンドロームを改善する
糖尿病、高血圧、がん、脳卒中、心臓病の怖さは、ここではいまさら申し上げるまでもないでしょう。メタボリックシンドロームという危険信号は、これらの病気の前段階にあると言うことです。
メタボリックシンドロームの危険信号を診断する基準は、病院・診療所をはじめ、保健所からも頻繁にPRされており、ご存知のことと思います。本年の4月から、メタボリックシンドロームの検診が制度として実施されることとなり、40歳以上の人には検診・保健指導が行われます。
保健指導すなわち予防と言うか、生活習慣改善の指導では特に食事と運動、それに休養が強調されます。これらは、それぞれ人によって生活環境が異なるため、診断の結果、生活習慣に応じて指導のポイントは違ってきます。実際には検診の結果に基いて専門家の指導を受けることになりますが、しかし、日日の暮らしの場で予防を心がけることは必要であります。先ほどのPR用ポスターなどにも、あるいは保健所のチラシなどにも、簡単な注意は出ております。
予防の基本は食生活、運動、休養です。政府機関発行の「生活習慣病のしおり」ではアメリカの大学教授ブレスローの7つの健康習慣を挙げています。
@適正な睡眠時間
A喫煙をしない
B適正体重の維持
C過度の飲酒をしない
D定期的に運動する
E朝食は毎日食べる
F間食をしない

4.暮らしの心がけと入浴
 メタボリックシンドローム悪化を意識する人は、日常生活において生活の習慣を改めることになりますが、さし当たって心がけることになるのは、
 @適度の運動と食事に配慮する
  A生活にリズムを持たせる
ことになります。

(1)適度の運動
成人の多くは次のような項目の実行を挙げていますが、実際には忙しい、時間が無いなどで着実に実行している人は少ないようです。
 @1日1万歩---始めは1日30分、息の弾む程度のスピードで
 A運動習慣の継続-----体調にあわせてマイペースで
 B階段の上り下り-----エスカレータやエレベータを使わない
 C家事労働による労働
 D日常生活で身体を動かす

(2)食生活の改善
一方、食事のほうでは、次のようになっておりますが、運動に比べるとこの面での実行は比較的よく行われています。
 @腹八分目の食事
 A彩り豊かな食事
 B減塩
 C寝る前2時間以内には食事をしない
 D週に1回は休肝日
 E野菜を十分に食べる
F朝食は摂る

(3)入浴の役割
 メタボリックシンドロームの予防にはストレス・疲れをとるということが重視され、「健康日本21」のなかにも「健康づくりのための休養指針」が出ております。その中に「生活にリズムを」という項目があって、「入浴で身も心もリフレッシュ」があります。
 「入浴で身も心もリフレッシュ」とは、風呂場がこの目的には格好の場所になりましょう。ここに、入浴剤 延寿湯温泉を加えれば、程よい香りが心身に一層の和らぎを与えてくれます。
また、毎日とはいわなくても、自分の体の健康状態を確実に把握しておくことは重要です。入浴の際には、体重を測定したり、へそ周りを測ったりして、日日の健康状態を管理します。銭湯でも、温泉でも脱衣場には必ず体重測定のための秤が設置されております。家庭の風呂脱衣場にも、ぜひ体重計と巻尺を備えて、身体の健康状態管理を行ってください。
風呂場は自らの健康状態を観察するにはもっとも適切な場所であります。
                              



<参考書>
藤田敏郎:知らないと怖い高血圧、平凡社、東京(2007)
生活習慣病予防研究会編:2000生活習慣病のしおり、且ミ会保険出版社、東京(2000)
香川靖雄:生活習慣病を防ぐ、岩波書店、東京(2000)

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【延寿通信】 2008年04月04日(金)

延寿通信 第56号 2008年4月

浴槽の手入れ

延寿通信  56号  2008年4月  

浴槽の手入れ
浴槽と一言でいっても、いろいろの種類があります。以前に本紙の第33号(2006年5月号)にて、浴槽の材質を取り上げましたが、それを復習しつつ浴槽の手入れと洗浄について特集します。
 この浴槽の手入れは、浴槽の材質によって大きく左右されますので、対象となる浴槽の材質は、しっかり把握しておいてください。
 浴槽の材料は粗く分けると、木・プラスチックス・金属・石の4種であり、それをもう少し詳しく見ると、次のようになります。
@木材(ヒノキ、サワラ、コウヤマキほか)
A金属(ステンレス、鋳鉄・鋼板ホウロウほか)
B大理石・石材(天然素材)
C陶器・セラミックス、タイル (焼き物・鉱物焼成品)
Dプラスチックス(ポリエチレン、ガラス樹脂強化プラスチッ  ク・ポリエステル=FRP)
 これらの中で、手入れ、洗浄に一番手間のかからないのがステンレス、次いでプラスチックスですが、どれもこれも材質に一癖あって、一筋縄ではゆきません。

1.木質の浴槽
 家庭用の風呂といえば、風呂桶という言葉が一般にあるように、江戸、明治を経て昭和の40年代までは、桶=木質が主役でした。ステンレスの浴槽は昭和の30年代、1956年に公団住宅に設置されたのが最初です。これが、木質からステンレスへと置き換わってゆく始まりです。ステンレスとほぼ同時代に、プラスチックスの材料も現れ始めます。
 木質の場合、はじめは桶の形式で小判型のものと、平板でつくる箱型のものとがありましたが、浮世絵に残る江戸時代の浴槽は風呂桶がはるかに多かったようです。作りやすかったのでしょうか。今日では、木質の浴槽の多くは、どちらかといえば、趣味の域にあって、ぜいたく品ですので、ゆったりした箱型のほうが多く見受けられます。
 木質は木の香りを非常に大事にします。特にヒノキ、ヒバ、コウヤマキの場合はそれが生命でもあります。さらに、木質の特性である色、木目の美しさも見逃せません。したがって、浴槽の手入れでは、これらの木の香り、色をいかに保存するかにあります。
 木材は長く湿気に曝されていると、材質の特性が失われ、腐敗へと進行し、黒カビの発生もあります。手入れには適度の乾燥が必要ですが、過度の乾燥は、これまた逆効果になります。長期間、浴槽を使用しないときには、湯を抜いて乾かした後、バケツに水を入れてふたをしておくようにと、メーカーは注意しております。木質の場合は、吸着というか、木材の微細な穴に浴液、汚物が入り込みます。これが一つの欠陥であるため、たわしなどで丁寧にこすり、洗うことですが、最近は、この微細な穴に入り込まないように表面処理して微細な穴をふさいでしまうこともあります。
 手入れでは、入浴後その都度、早めに湯を抜いて浴室の換気をすることが望まれています。しかも、タオルで水気をぬぐっておくことです。早めに用済みの湯を抜き、湯とともに浴槽内の汚れの物を洗い流しておくというのは、どの浴槽でも共通であり、浴槽手入れの基本ですが、木質の場合のみ、浴槽そのものに乾燥が求められます。他の材料では、こういうことはあまり問題になりません。
 たとえば、ヒノキの浴槽は水漏れの保証が5年ぐらいですが、この時期になると、ヒノキも大分傷み、あめ色に変色してきたり、黒カビが出てきたりもします。ヒノキの浴槽メーカーは、「まったく掃除しなくても美しいまま使える浴槽なんてありません」「年月の経過に伴う汚れについては、保証の対象外です」と、手抜きを戒めています。
 浴槽のカビ、あるいは変色に漂白剤を使うことは好ましいことではなく、着色するまでに放置しないで、それを防止するのが基本であり、上述のように早めに湯を抜いて乾かすことが先決であると説明しております。不幸にして、黒カビの発生、あるいは着色に気づいた場合は木質の侵された表面をこすり取る目的で、表面を研磨剤系洗剤で洗うことになります。ひどいときは鉋で削り取ることもあります。この場合、注意することは、最近は既述のように表面処理をして木質部にプラスチックスを染み込ませて耐久性を向上させた材料があるため、この材料には研磨剤系洗剤の使えない場合があります。種類の確認が必要です。この表面処理した浴槽は、もともと着色したり、カビの発生することは少ないようです。

2.金属系(ステンレス、ホウロウ)の浴槽
 1953年ごろに出現したステンレス浴槽は、風呂の技術革新として、風呂場のイメージを大きく転換させました。ステンレス浴槽は強度と言うか、耐衝撃、耐久性という点では、まさに革命的で、さらに、汚れにくさ、洗浄のしやすさ、それに伴い衛生的であることは木質浴槽の欠陥を塗り替えました。
 手入れの簡単なことが、このステンレス浴槽の特徴なのですが、やはり排水後、こまめに拭き取ることは肝要であり、ずぼらをしないことです。
 浴槽の汚れと言うと、大部分は垢、石鹸かす、皮膚のはがれなどの付着で、微生物の栄養分にもなります。これは金属表面にも付着しますが、風呂用洗剤がもっとも効果的に使える場面です。使用済みの落とす湯で浴槽壁をスポンジで洗いつつ、流してしまえば、無機物の結晶が付着することは防止できます。不幸にして結晶付着が発生していることに気づかれた場合は、擦り取るか、酸性洗剤によるか、いずれかを選びます。クエン酸や酢酸を染み込ませたスポンジたわしが出ていますが、ざらつく結晶の除去にはやや時間のかかることがあります。
 最近は金属表面をソフトにカラーコーテイングしたステンレス浴槽が出回っております。金属の冷たい感じを取り除き、暖かい柔らかな感じが出ております。この場合、無垢のステンレスと同様に研磨剤入り洗剤でごしごしすることには問題がありそうです。浴槽の注意に従ってください。
 ホウロウと言うのは、本体は鋼板または鋳鉄であり、強度のあるガラスで包んでおります。最近のホウロウ浴槽は鋼板で、たとえば、タカラスタンダードの高品位ホウロウは、強度に特に配慮されており、ごしごし金属たわしでこすっても大丈夫と説明しております。ただし、銘柄によっては異なる場合もありますので、鋼板ホウロウすべてに共通とは限りません。

3.大理石・石材の浴槽
 天然の大理石浴槽はこのところ、減少気味のようです。この天然大理石というのは化学的には炭酸カルシウムであり、大理石浴槽は入浴剤「延寿湯温泉」はじめアルカリ系入浴剤によって表面の光沢が失われる恐れがありますので、入浴剤は使用できません。  
 大理石は表面が比較的軟らかいので、粗い研摩剤洗剤は使えませんし、プラスチックスのスポンジたわしにも傷をつけるものがあります。なお、人工大理石の浴槽と言うのは、通常はプラスチック製で、アクリル樹脂を使っているものが多く、天然とは別です。
 石材と言うと化学的に安定しているかのごとくですが、大理石や石灰岩は無機化学の材料になるように化学的には意外と弱く、アルカリ性・酸性洗剤で表面の光沢が落ちたりすることがあります。また、柔らかい石材では強く磨くと、表面に傷がつきます。大理石以外の石製では値段が1千万円するものもあって、御影石ほか、いろんな石材を用いた浴槽が散見されます。なかには鉄分が含まれているので着色に注意してくださいという石材もあります。手入れに当たっては、石材の種類を確かめ、使用上の注意に従い、方法、洗剤を選んでください。
 陶器の浴槽もありますが、これは強度に欠陥があって据付も難しく、しかも高価ということもあって、一般には普及しておりません。手入れ・洗浄には茶碗や料理容器と同様に考えれば、扱いにくいけれども、この面では楽な素材になります。
 強度の大きいセラミック製もあります。現在は少ないようですが、この場合は、洗剤の使用、磨きなど手入れには寛容になっています。

4.プラスチック浴槽(FRP)
 最近の浴槽の大部分はFRPによるプラスチック浴槽です。この材料は1954年にアメリカで開発され、国産第一号は1957年に東洋陶器鰍ノて製造・販売されています。
 家庭やホテルの浴室をユニット化する動きがあって、このFRP浴槽は、最適と評価されユニットバスの普及とともに早々から大きく伸びました。
 FRPの素材はガラス繊維とポリエステル樹脂(PET)なのですが、ここに上述のアクリル樹脂の人工大理石も加え、樹脂浴槽と一括して称する場合があります。樹脂製はこの20年で浴槽の主流となりました。
 家庭用浴槽の材質は、やや古いデータですが、全体の比率は次の表のとおりです。
      合計     樹脂  ステンレス  ホウロウ
1975年  208万台   47.9%   24.6%   27.5%
1995    81.6万台  71.7%   20.3%    8.9%
 この表は、TOTO出版による「お風呂考現学」によりますが、家庭用浴槽の総量が減少しているのは、浴室ユニットという、ホテルにてよく見かける浴槽と浴室が一体化されて据え付けられるタイプが急増しているからです。
 さて、このタイプの手入れですが、不要の湯を早く落とし、その場合、落とす湯で十分、浴槽内の汚れを洗い流すことです。湯を抜いた後は、シャワーの湯をかけ、タオルのような柔らかい材質の布、あるいはスポンジで拭いて、水分を取っておきます。乾燥させるのは、浴槽の保護と言うよりも、浴室全体のカビ発生を防止することを目的としております。
メラミン樹脂の付着したスポンジは表面に傷のつく恐れがあるというので使わないようにとメーカーは注意しております。
浴槽用のクリームクレンザージフ バスクリーナーは、いわゆる浴室用の研磨剤入り洗剤であって、浴槽メーカーは推奨しております。しかし、研磨剤入りのクリームクレンザーは、しつこい汚れには最適なのですが、強くこすると表面に傷のつく場合、あるいは表面に光沢の出過ぎることがあり、使いすぎには要注意となっております。
磨き砂、粉末クレンザーのように、粗めで、こすって汚れを取る材料は傷つきの原因となるので、使用できません。表面に傷がつくために、使っていけない材料はこの粉末研磨剤系以外に硬いスポンジ、金属たわし、ナイロンたわしなどがあります。
 酸性のきつい洗剤は、たとえば、サンポールのようにトイレの掃除などに使われている洗剤は浴槽向きではありません。結晶の付着したとき、クエン酸や酢では穏やか過ぎるので、強い酸性の材料を要望される場合がありますが、やや時間はかかるものの、できるだけ穏やかなクエン酸配合の浴槽用酸性洗剤の使用をお奨めします。また、酸性やアルカリ性と表示している洗剤には、FRP樹脂を着色してしまう心配がありますので、使用後はすぐ洗い流すなどの配慮がいります。トイレと違って風呂では酸やアルカリ液の身体付着の心配があるため、性質の強いものは、できるだけ使用を避けるべきです。
 接着剤や粘着テープによるしつこい汚れには、シンナー、アセトンのような有機溶媒を使うことがあります。表面が鉱物質のガラスや金属には効果的ですが、FRPのようなプラスチックスには使用できません。有機溶媒はプラスチックスに浸透して着色させたり、表面を劣化させることがあります。浴槽には有機溶媒を近づけないことです。
 FRPの浴槽そのものにはカビが生えて黒くなるようなことはまずありませんが、浴槽と壁面、床との間隙にコーキング剤(充填剤)を詰めたとき、ここにカビの生えることはあります。カビにはカビとり剤が効果的です。FRP浴槽は化学的には強い材料であり、これが直接カビ取り剤に冒されることは少ないのですが、変色防止のため、長時間の接触は避けたほうが安全です。カビ取り剤というのは、目的外のものに付着した場合は、すぐ洗い流しますが、狙っている黒カビのある場所に散布した場合、すぐ水で洗い流してしまうと効果はなく、20〜30分ほっておきます。なお、風呂場のカビについては、本紙35号(2006年7月)にて特集しておりますので、ご覧ください。

 最後に くどいように申し上げますが、浴槽の手入れの基本は、
@用済みの湯は早めに落とす
Aその湯を使って、汚れ物が浴槽壁面に付着して残らないよう
浴槽洗剤で洗う
B最後に、シャワーのきれいな湯をかけて、拭き、乾かしておく
 ことです。着色、結晶の付着はこれにて通常は予防できます。

 入浴剤 延寿湯温泉は、天然素材の生薬粉末が材料であり、無機塩類も入っておりますので、着色、結晶付着には余計にご注意いただきたく、くれぐれも防止にご配慮ください。

<参考書>
江夏弘:お風呂考現学、TOTO出版(1997)
早川美穂:お風呂大好き、生活情報センター(2004

Posted by 管理者 at 16時38分   パーマリンク

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