【延寿通信】 2008年08月08日(金)

延寿通信 第60号 2008年8月

暑い夏、熱中症に注意。しっかり睡眠をとりましょう

入浴で快眠



延寿通信 第60号  2008年8月
熱い夏 入浴で快眠・元気を回復------

「熱中症ハイペースにご用心」(2008.7.28 朝日新聞)。今年の夏は暑さが厳しいせいか、熱中症が異常に多いと報道されております。熱中症の予防には、暑い日差しを避けて、水分をこまめに補給することですが、もう一つ大事なことは、十分の睡眠をとって体調を整えておくことです。
暑い夏の夜、とかく睡眠不足になりがちです。イライラもたまってきます。
お風呂に入って汗を流し、気分爽快。ストレスを吹き飛ばして、ぐっすり眠る。これが入浴による元気回復のコースです。入浴と睡眠の関係を本号では特集いたしますが、時節柄、はじめに熱中症に触れておきます。

1.睡眠不足と熱中症
このところ、特に多い熱中症の予防のことを取り上げますが、熱中症と入浴とは直接の関係はありません。先程の朝日新聞の記事では、予防にはとにかく水の補給と十分の睡眠が予防には欠かせないと書いてあります。
連日、報道される新聞・テレビでは、熱中症のニュースは日中の最高気温に関連して気温が37,38度と高い地域に話題が集まります。
熱中症は、ちょうど今頃のような気温・湿度の高い夏場において、風も弱く、日差しのきつい場所で発生しやすいのです。そういう環境の中にあって、もう一つの要因として挙げられるのが、体調の影響です。激しく身体を動かして熱の産生されやすい状態において、暑い環境に十分対応できるような体調になっていないと、熱中症を引き起こしやすくなります。熱中症とは熱に中(あた)ることで、体温調節機能が働かず、程度に応じて失神したり、痙攣起こしたりします。
熱中症では、体調のほかに、特定の疾患にあって、体温調節がうまく出来ない人、たとえば、心疾患、糖尿病、精神神経疾患、皮膚疾患のある場合には、引き起こす確率が高くなることがあります。また、疾患とはいわなくとも、高齢者や肥満傾向の人、普段余り運動していない人などは要注意です。
環境省では、熱中症にならないように、日常生活では次の点に注意するよう呼びかけております。
@暑さを避けましょう------日陰、日傘、帽子など
A服装にも工夫しましょう------吸水性にすぐれた下着
Bこまめに水を補給しましょう‐-----水やお茶でいいのですが、ビールは駄目
C急に暑くなる日に注意しましょう------上手に汗をかくことができるように
D個人の条件を考慮しましょう-------朝食は食べる、寝不足ではないこと、激しく動いた後には体温を効果的に下げる、安静・昼寝など
E集団活動の場では お互いに配慮しましょう-------皆が夢中にならないで監督者がいる

なお、熱中症の応急手当の一つに、患者に水をかけて冷やしたり、水風呂に入れることなどがありますが、生命に直接かかわることでもありますので、詳細は専門書におまかせいたします。

2.快い睡眠で睡眠不足を解消
暑い夏を快適に過ごすには、なによりも快眠、ぐっすり眠ることが大事です。しかし、分かっていても容易に眠気はやってきてくれません。だれも快眠は願っているものの、簡単に出来るものではありません。
それは一つには、心がけというか、日常の生活習慣にもかかわりがあり、快眠のための準備、実践には努力が要るからです。
大阪大学保健センターの足立先生は日経新聞(2008.7.29)にて、快眠のために実行すべき生活習慣をつぎのように列記されています。全部で13項目ありますので、ここでは簡略にして、引用いたします。
先生はセミナーなどで、参加者にこの13項目の快眠の実践を推奨されているのですが、確実に実行して習慣の改善をされている方の効果は大きい、と説明されておられます。
快眠にお悩みの方には13か条の実践を、ぜひお奨めします。

@毎日同じ時刻に起床する
A自分に必要な睡眠時間を見つける
B午前中に十分明るい光を浴びる
C昼寝(午後3時までに30分以内)を有効活用する
D適度の運動を毎日する
E就寝直前まで仕事、勉強をしない
F夕方以降カフェイン類、たばこは控える
G就寝時にくよくよ考え事をしない
H就眠直前に熱い風呂には入らない
I寝酒はしない
J寝る環境を整える
K無理に寝ようとしない
L眠れないときに、時計を見過ぎない

3.快眠と入浴
ここで、特に強調したかったのは、快く眠るための入浴の方法です。
入眠の工夫の基本は体温を上げることにあると、『快適睡眠のすすめ』(岩波新書)の著者 堀忠雄さんは強調されています。寝つきが良くなるということは体温が下がってゆくときであり、逆に体温が上がってゆくときにはなかなか寝付けないといいます。赤ちゃんが寝る前に手足の温かくなるのは、血液を体の表面にまわして、脳の奥の温度を下げているためだそうです。
これは、大人では簡単には出来ません。というのは、大人の場合、睡眠に悩むようになると、どうしてもストレスがたまってきて、血管は収縮して末梢の血流は流れが悪くなります。赤ちゃんの場合とは逆で、体表面は冷えてきております。したがって、大人では、寝る前に体温を上げておいて、次第に熱の下がる過程を利用して、眠りつけようということになります。
体温を上げる手っ取り早い方法が入浴です。風呂に入ると、体の表面から温度は上がってきますので、表面の血流は良くなり、内部の血液は外に向かって流れてきます。
ここで、熱い湯に入ることは厳禁です。先の快眠13か条にもありました。熱い湯は交感神経を興奮させますので、眠れるどころではありません。ぬる目の湯に入ると、副交感神経が興奮しますので、心は穏やかになってきます。内部の血液を体の表面に向けて循環させて、放熱します。
入浴後10~15分ぐらいで汗を引かせ、体温が下がってくるころに横になると、眠りに入りやすくなる状態になります。もっとも、このあたりの時間、ころあいは季節によっても、個人によっても、かなり事情は異なってきますので、最適の方法を見つけることが求められます。
風呂に入るタイミングは寝る前か、そのずっと前、夕食前とがありますが、寝る直前に入る場合はぬる目に、大分時間のあく場合は熱い湯でもかまわないといいます。
先程の13か条では適度の運動という項目がありましたが、運動と入浴を組み合わせるのが効果的であり、運動後2時間ほどしてから、ぬる目の風呂に入り、一汗かいてから、横になるのが理想的であると、先の堀さんは述べておられます。
就寝時に眠りにくよくよするわだかまりを除くために、ぬる目の湯にのんびり漬かり、そのとき読書をしたり、ラジオを軽く聴いてイライラを排除する、という入浴の方法がありますが、たしかに、これはくよくよ除去には効果があります。
 ぬる目の湯に、のんびり漬かる、それだけでも十分、心身は和らぎますが、もっとこれを積極的にやってみようという場合に登場するのがアロマセラピー、芳香系生薬の配合されている入浴剤を使用することです。
ストレスがたまらないようにするには、あるいは過多になったストレスを除くには、食事と運動と睡眠が特に大事であるといわれております。ここでも睡眠が浮かび上がってくるのですが、ストレス発散と入浴については、膨大な内容になりますので、改めて特集することにいたします。
これまでも、入浴剤の香りによって心身を爽快にする効果として、生薬入浴剤 延寿湯温泉によるストレス解消はたびたび取り上げてきました。本剤には龍脳やリョウキョウはじめ芳香性生薬を種々配合しているので、お得意の領域です。どうぞお試しください。
 


  
<参考文献>
理化学研究所脳科学総合センター:脳研究の最前線、講談社(2007年)
環境省:熱中症環境保健マニュアル 2008年6月改訂版
堀忠雄:快適睡眠のすすめ、岩波書店(2000年)

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【延寿通信】 2008年07月04日(金)

延寿通信 第59号 2008年7月

紫外線のきつい季節となりました

紫外線から皮膚を守りましょう

延寿通信 第59号  2008年7月
夏場の皮膚のいたわり------日焼けと紫外線

 夏休みの終わったあと、子供たちの真っ黒に日焼けした姿が、かつては野外活動に活発な子供の健康の象徴でもありましたが、最近では紫外線照射に無防備であるという見地から、必ずしもお奨めできる姿にはなっていないようです。
 このところ、紫外線をいかに遮るかということが結構話題になっており、それに関連した商品も増加してきております。
 紫外線が、結構、悪者扱いされていること、さらに、世の中、原油高のために、車で冷房して出かけるのが、やや厳しくなりつつあるせいでしょうか、紫外線防止の関心は高まっております。
 入浴剤と石鹸は、清潔で健康な皮膚を守るために、欠かせませんが、紫外線防御には直接の関係はありません。健康な皮膚を守るという立場で、今回の中味をご覧いただければと、思います。

1.日焼けするのは皮膚を紫外線から守るため ――紫外線の皮膚への影響
 今日では、日焼けして真っ黒になるというのを、健康的であるとはいいません。日焼けするというのは、紫外線による皮膚への影響を少しでも減らすための一種の皮膚の防衛反応であります。
 紫外線に当たって日焼けするとなぜ、皮膚は黒くなるのかということは、まだ最終的な答えは出ていないのですが、かなり絞られてきてはいるようです。皮膚の色を決めているのはメラノサイトという細胞の一種で、メラノサイトは、紫外線の照射から守るために、メラニン色素をつくります。メラニンという用語はギリシヤ語の「黒」という言葉から来ておりますが、通常は黒い色素であり、黒人の皮膚にはこの色素が多いのであり、日焼けの肌にもメラニン色素は増加します。元来、メラニン色素は、紫外線のように皮膚の細胞を破壊する外部の悪者から、守るためにあるものです。皮膚の細胞を破壊するとは、DNAの破壊であり、放射線照射の場合と同様な現象で、程度によっては発ガンにつながります。本来のヒトの生命安全のために、日光の強い地域では、黒人の肌のようにメラニン色素を増やして皮膚を守らないと、皮膚ガンになることがあり、東洋系にくらべ、メラニン色素の少ない白人はしばしば、皮膚ガンに冒されます。
日焼けで皮膚が黒くなるのは、紫外線が皮膚を黒くするのではなく、細胞を紫外線によって破壊されないよう、すなわち、ガンにならないように、メラニン色素が必死になって皮膚を紫外線から守ってくれている結果であり、決して健康な状態ではないということを認識しないといけません。
 日焼けというのは、厳密には2種類あって、欧米ではサンバーンとサンタンに分けています。サンバーンというのは、ちょっと日に当たると皮膚が赤くなって、風呂にでも入るとひりひり痛い状態です。これは2,3日で治まります。ところが、サンタンというのは、冒頭にあげた俗に言うクロンボ大会の皮膚で、痛みの伴わない長く続く皮膚の黒い状態です。サンタンは皮膚にメラニン色素の沈着した場合ですので、簡単に色は消えません。

2.紫外線とは何か
 紫外線は(UV=Ultra Violet)とも呼ばれ、マスコミではUV(ユーブイ)のほうが一般的なのか、よく使われます。紫外線はヒトの目では見えない光線の一つです。ヒトの目と断わったのは、昆虫であれば、たとえばモンシロチョウであれば紫外線は見えるからです。
 日光をプリズムに通すと七色に分かれて、いわゆる虹の七色ができます。その端は紫と赤色で、紫の色の外側に紫外線は位置します。紫外線ランプというと微生物の殺菌用に使われていることからも分かるように、強力な細胞破壊力を持っております。
 紫外線は太陽光の一つですので性質は、太陽光に従います。日陰に入れば紫外線は減り、部屋の中では外の10%ぐらいになります。また、太陽が直射ではなく、うす雲があれば、減ります。また、太陽に近くなると、量は増加し標高1000mについて10〜20%増加してゆきます。登山や、高原ではご注意ください。また、光ですから反射もします。新雪では80%反射するというので、スキーをするときにはサングラスをかけます。雪ばかりではなく、舗装道路や水面でも反射して目に入ってきます。
 紫外線は太陽との距離が短くなるほど照射は大きく、季節では日本の場合、6月〜8月に最大となり、1日のうちでは正午前後がもっとも大きくなります。
 地球の上空はるかかなたにオゾン層というのがあって、オゾン層は紫外線が直接降り注ぐのを防いでおります。ヒトを始め地球の生物にとっては大事な大事なオゾン層なのですが、この層はフロンガスによって冒されて、穴が開いてしまいます。穴があくと、そこから紫外線が流れ込み地球にやってきます。スプレイやエアコンに使われていたフロンガスは、このオゾン層を破壊する作用があるために、今では世界各地で使用禁止になっております。

3.紫外線照射で受ける被害
 紫外線の照射による被害では、生活面であるいは生態系、農業生産など、いろんな分野で悪影響が出てきます。たとえば、医薬品の保存管理でも「遮光して涼しい場所に保管」とか「直射日光には当てないようにしてください」など注意事項が表示されております。
 医薬品の光への影響は、そのほとんどが紫外線による中味の化学変化(劣化)を心配しているからです。
 健康への被害は少なくありません。先にも書きましたが、被害を受けてからの治療よりも予防が大事です。しかし、不幸にして紫外線を浴びすぎたきには、主として皮膚と目に悪い疾患が出てきます。紫外線に関係する病気は軽いものばかりとはいえません。
 このような疾患に移行したときは早めに専門の医師の治療を受けることになります。
健康への被害では、環境省の報告では、次のように急性と慢性にわけて疾患を挙げております。
  急性:日焼け(サンバーン)、雪目、免疫機能低下
  慢性:皮膚の場合
   しわ、しみ(老人斑)、良性腫瘍、前がん症状、皮膚がん
  慢性:目の場合
   白内障、翼状片(眼疾患の一つ)
 マイナスばかり挙げましたが、プラス面ではビタミンDの産生を促し、骨の発育にいいといわれています。日照に乏しい地域によっては、骨の発育異常があり、小児のくる病というのが以前、問題になっていましたが、ビタミンDも普及し、最近では激減しているようです。

4.紫外線照射から守る方法
 紫外線は光の一種ですから、光線を避けると同じようにすればいいのです。目を保護する場合、真っ暗にはできませんので、サングラスあるいはUVカットの眼鏡を使うと、目は保護されます。また、日傘でも、日光は遮断はしますが、UVカットの布地によるものが、紫外線には一層効果的です。
 以前は赤ちゃんの日光浴が推奨されていましたが、今では、デリケートな赤ちゃんの皮膚を紫外線から守るために、日傘のなかで、全身を薄着で包んで、直射日光に曝すことのないようにして外気浴させるようにと改められております。
 日焼けしてから、治療するのではなく、紫外線には当たらないように、防止に努めるのが肝心であり、環境省では次のような対策を推奨しております。
@外へ出かけるときには紫外線の強い時間帯を避ける
A日陰を利用する。ただし、日陰でも、散乱してくる紫外線はありますので、ゼロではありません。
B日傘を使う、帽子をかぶる。帽子はつばの広いのがお奨めです。
C衣服で覆う。首や腕、肩などの保護を考えて体を覆う部分の多い、木綿製品がいいようです。
Dサングラスをかける。紫外線防止効果の性能のはっきりしたものが必要です。
 色の濃いサングラスは瞳孔が大きく開くので、UVカット効果が小さいとかえって紫外線の被害は大きくなりますので要注意です。
E日焼け止めクリームを上手に使う。
気象庁ではインターネットで毎日、全国の紫外線量の情報を発表しており、このデータを読めば、紫外線が多いのか少ないのかが分かります。どうぞ予防にご利用ください。
 
化粧石鹸の「延寿石けん」は、薬用ではありませんので治療というよりも、化学薬品無添加の刺激が少ないという特徴を生かして、日焼けの起きた皮膚をいたわりつつご使用いただければと思います。
          
<参考文献>
田上八朗:皮膚の医学、中央公論新社(1999年)
環境省:紫外線保健指導マニュアル 2006年版
気象庁:紫外線に関するミニ知識(ホームページ)


Posted by 管理者 at 15時57分   パーマリンク

【延寿通信】 2008年06月06日(金)

延寿通信 第58号 2008年6月

日本人は世界一のお風呂好き?

-「風呂と日本人」を読む


「日本人は世界一の風呂好き民族である」というのですが、いかがでしょうか。これは最近、刊行された文春新書『風呂と日本人』の帯の宣伝文句です。
たまたまこの本の出たころ、筑摩書房のPR誌『ちくま』(2008年5月号)に、次のような本の広告が出ていました。
『風呂とペチカ―ロシアの民衆文化』(群像社、2008年4月発刊)は「ロシアの人はお風呂が大好き。ペチカや風呂小屋に入って蒸気を浴びて汗をかき、からだをたたいてリフレッシュ。・・・・日本初の本格的ロシア風呂案内」とありました。
風呂の好きな民族は、何もわが国だけではなさそうですが、たしかに日本人は世界一の風呂好きなのか、本書『風呂と日本人』を読んでご判断ください。
『風呂と日本人』(著者:筒井功、文藝春秋社、2008年4月)は先日、朝日新聞の書評欄にて紹介されました。今回は本書の一部をここでご紹介いたしましょう。

1.風呂の発端
 風呂の始まりというのは、その端緒を見出すことがなかなか難しいのです。水を浴びて身体を洗う、湯に浸かるのは、ある日突然、始まるものではなく、日本のどこかで、生活の習慣としてあちこちに生まれる、そういう性格のものだからです。日本の各地には古くから温泉があって、奈良時代の風土記に記述されているように、歴史以前からの習俗として温泉は利用されています。また、暑いときに、あるいはからだを洗うために、川や海に浸かるのは、これまた人間の自然の行いであり、水を浴びて身体を洗う、湯に浸かるのに独自の方法にてするような行為でもありません。
 そういう状況のなかにあって、あえて風呂の始まりを追及するということは大変な仕事です。発端を探るには、先ず、用語をきちんとしておかないと混乱します。『風呂と日本人』の著者、筒井功さんは、はじめに風呂の言葉の説明に、ページを割いています。
本書では、風呂のルーツを探るというので、著者は全国をくまなく歩き、現存する風呂や、風呂の遺跡を訪ねます。それは、それは膨大な仕事です。この本の特徴は、この風呂の探訪にあるといってもいいでしょう。

2.風呂とは何か
 今日、われわれの暮らしで風呂といえば、浴槽の湯に浸かって、身体を温めて汗を流し、出て、洗い場で汚れを落とすタイプを頭に浮かべるでしょう。家庭の風呂、銭湯、温泉のいずれをとっても、大部分の方は温湯タイプの風呂を思い起こすことにさほど抵抗を感じません。なかにはサウナのような蒸気浴を頭に浮かべる人、あるいはシャワーをざっとかぶって、これにて風呂を済ませてしまう人もいるでしょう。
しかし、江戸時代までは、「風呂」というのはサウナ式の蒸気浴・蒸し風呂のことをいい、今日の浴槽に湯に浸かるのは、「風呂」ではなく、「湯」といい、「風呂」と「湯」は、はっきり区別されていました。ここでは誤解を招くといけませんので、江戸時代以前の風呂を取り上げる場合には、「風呂」と「湯」のようにカッコをつけることにします。
したがって、風呂の歴史をたどるには、「風呂」と「湯」を別々に取り上げて考えないとややこしくなります。
わが国の「風呂」のルーツは蒸気浴であるというので、著者は、このタイプの「風呂」を中心に取り上げ、歴史的、地理的な変遷を調査しています。
この蒸気浴、「蒸し風呂」に入るには独特の設備、構造を必要とします。遺跡として蒸気浴のための構造物が残るので、ある程度、起源を探ることを可能にします。

3.蒸気浴とは
 さきほど、蒸気浴の例にサウナと申し上げましたが、蒸気浴はこれまで本欄ではほとんど取り上げておりませんので、簡単に説明しておきます。
蒸気浴は蒸し風呂ともいわれて、湯に浸かるのではなく、一定の空間に蒸気を満たして、そこで身体をあたため、汗をかいて蒸気部屋から出て湯や水をかぶり、洗います。
蒸気の発生方式にはいろいろあって、歴史的な方法は部屋というか、囲まれた室(むろ)の中で火をたいて、灰を掻き出した後に、床になっている石に水をかけ、この上に濡れたむしろを敷いて横たわります。室の中は蒸気で満々です。水をかける代わりに海水を使うと健康に好いというので、海辺に近いところに「風呂」用の室の作られる場合は多いのです。蒸気は通常は焚き火にて何時間もかけて石を真っ赤になるほど焼いて、水をかけます。このような「風呂」を石風呂と呼んでいますが、ほかに岩風呂、あるいは釜風呂などと呼ばれる場合があります。ただし、釜風呂というのは由来が石風呂とは若干異なるようです。蒸気浴をするには蒸気を満たすための密閉した小部屋(室)を準備しなければなりません。そこでは材木や、枝、葉、海藻などを大量に焚くので、不燃性のがっちりした構造が求められます。

4.わが国の風呂の発端はどこか
 著者は四国の海辺の「風呂」、ここでは石風呂の跡をたどり、香川県で、あるいは瀬戸内海の島々で、たくさんの石風呂、大部分は遺跡を発見します。遺跡というのは、現在は使われていないで、石で組んだ室、岩をくりぬいた室などをいいます。写真で見ると頑丈な構造物です。たとえば、本書の最初に出てくる香川県さぬき市の塚原の「から風呂」は奈良時代の僧行基が築いたという伝説があり、文献には江戸時代1749年に使われていたというのが出てくるそうです。この「風呂」は、2007年3月まで利用されていました。香川の石風呂では古いものでは15世紀半ばにはあったといいます。
 日本で一番有名な石風呂というのは、愛媛県「桜井の石風呂」で江戸時代初期に作られており、現在も夏場は毎日、火が入り、多くの人が利用しております。
 伊勢も「風呂」の多い土地であって、たくさんの風呂跡が残されています。江戸時代初期に、最初の銭湯が江戸に生まれたといわれておりますが、この銭湯には伊勢の人物がかかわっております。
筆者は各地の残された「風呂」を調査して、発汗浴というタイプに集約し、次のようにこれを分類しております。
    
発汗浴→熱気浴と蒸気浴
熱気浴 
 炭焼き型(香川県に例あり、以下同じ)
 岩窟型(愛媛県)
 石積み型(山口県)
 オンドル型(大分県) 
蒸気浴
 伊勢風呂(三重県)
 塩石(大分県)
 温泉熱型(大分県)
  寺院の浴室(奈良県)

 寺院の浴室は、奈良時代には温湯方式、すなわち、浴槽に湯を入れる今日の銭湯タイプであった形跡もあり、どちらのタイプであったのかは、はっきりしないといいます。著者は日本の風呂の始まりで文献・史跡で確認できるのは中世以降であると述べており、奈良時代のころに朝鮮から伝来したのではないかと推測されていますが、それがどのようなルートで来たかは不明になっております。

5.日本人の風呂好き 
各地の風呂という字のつく地名を中心に、著者の探訪は続くのですが、結局、わが国の「風呂」発祥の地、時代は、となると、本書の記述は必ずしも明快ではありません。さらに、なぜ、初期には石風呂が広く出回っていたのか、残念ながらはっきりしません。「風呂」の設備・構造は単純であり、焚くのが手軽というか、扱いやすかったためではないかと推察されるのです。温湯方式となると、給水装置、湯を張る桶というか、浴槽、それに何よりも釜の発達、釜は鉄の巨大な鋳物であり、これがないとできませんので、初期の段階では農山村には縁が無く、勢力のあった一部の寺院に限られます。
各地の農漁村の人たちが、それぞれ手軽に蒸気浴で身体を休め、清潔な暮らしを楽しむために、「風呂」施設の普及を考え出しました。各地でこれが展開されたことを本書で知り、日本人の風呂好きがここに芽生えたのかと思いました。
本書では歴史上は蒸気浴の「蒸し風呂」があくまでも風呂の主役であり、中世以降に「温湯浴」が出始めたというストーリーになっており、わが国の風呂の元祖は湯浴み方式ではなく、蒸し風呂であり、その遺跡が意外と多いことを教えてくれます。
蒸気浴の「風呂」には、一見入浴剤は無縁のように思われますが、そうではなく、江戸時代には蒸気を発生させる床にヨモギを敷いたり、ショウブのような芳香を出す薬草を並べて香りを漂わせる蒸し風呂がありました。入浴剤 延寿湯温泉のような生薬風呂には長い伝統があります。香りを大切にする入浴剤の誕生はここにあったのかも知れません。
本書『風呂と日本人』は全国各地の「風呂」の遺跡、地名などが実に細かく調査されています。本書を読めば「風呂」にかかわる懐かしい土地、「風呂」の跡に、出会う機会があるかもしれません。お風呂大好き、歴史地理も大好きという方には興味深い本です。


<参考文献>
筒井功:風呂と日本人、文藝春秋社(2008)
早川美穂:お風呂大好き、生活情報センター(2004)

Posted by 管理者 at 16時02分   パーマリンク

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