【延寿通信】 2009年07月02日(木)

延寿通信 第71号 2009年7月

 センキュウとは一体どのような生薬(薬用植物)でしょうか。

 漢方の世界では欠かせない生薬(薬用植物)というのがあります。古来、漢方の基本的な処方の成分として大事にされてきた生薬です。古来というのは、2000年、3000年の歴史を持つ漢方の古典に収載されているということです。その古典医書のひとつが『神農本草経』です。センキュウはこの『神農本草経』に取り上げられており、ニンジンと並んで重宝されてきました。
 センキュウは漢方ではからだを暖め、血行を良くし、鎮静・鎮痛の作用もあるというので、入浴剤の代表的な生薬であり、一方では煎じ薬としても広く用いられ、婦人科の疾患には主要な薬剤として多方面に使われております。

1.センキュウという植物
 センキュウはせり科の植物で、薬用に使うのは根っこです。せり科の植物は薬用には多く、それぞれが葉から根までに芳香を有しており、それがこの科の特徴のひとつです。
 せり科の食品では、芹、人参、パセリ、セロリなどがあり、いずれもせり科独特の、芳しい香りが漂ってきますので、お分かりかと思います。せり科の薬用では、トウキ、ヨロイグサ、アシタバ、サイコ、ウイキョウ、ハマボウフウほか、重要な植物が並んでおります。近代の医薬品で、アトピー、アレルギーなどの代表的な薬物クロモグリク酸ナトリウム(商品名:インタール)は、せり科植物から発見されました。
 せり科植物のもう一つの特徴は花の咲き方にあります。散形花序といって、花ひとつひとつは小さいのですが、頭頂部に集まって傘のように広がって咲きます。この花の形でせり科植物の大部分は見分けがつきます。
センキュウの原植物の名前は、おんなかずら、おんなぐさとも呼ばれ、「おんな」にかかわりある名前になっております。植物見ただけでは「おんな」にかかわりがあるのか、その姿の優しさをいうのか、理解に苦しみます。女性と関係のあるのは薬効なのですが、それが果たして、植物名につながるのか、これまた疑問です。
 

2.センキュウの生い立ち
 センキュウはもともとは中国の生薬であり、植物は江戸時代初期に日本にやってきたというのです。冒頭にも申し上げたように中国の古典医書に記載されて、中国では長らく医療の場で用いられていきました。江戸時代までは、わが国では中国からの輸入品で間に合わせていたのでしょう。日本での栽培が進むと、日本産の需要が高まったのですが、日本の北部を中心に栽培地区はどんどん広まりました。
 ところが、つい最近、日本薬局方では、中国のセンキュウと日本のセンキュウとは植物が違うというので、中国産センキュウの使用が禁止されました。まことに不思議な現象です。江戸時代に中国から入ってきたセンキュウと同一の植物、すなわち日本で今、栽培されているセンキュウは、今では、中国現地では野生株を見つけることはできない、といいます。
 そういうわけで、今ではセンキュウといえば、日本産で、入浴剤といえども、すべて日本産センキュウを使います。中国産の輸入はピタリと止まりました。
中国ではキュウキュウというのですが、なぜこのように呼ぶのか、それは分からないと、中国古典の植物書、『本草綱目』(1578年)には出てきます。キュウというのは弓なりになった様をいうといい、センは、さきごろ大きな地震がありました中国の四川省(しせんしょう)に由来しております。今でも、中国のセンキュウの主産地なのですが、センキュウのセン=川 であり、これは四川省からきました。四川省は昔からセンキュウの主要産地であり、品質も優れていたので、植物に土地の名前が残りまた。
 日本ではセンキュウは北海道、東北地方、長野、奈良などで栽培されております。
 なお、つい最近のことですが、日本のセンキュウの種を中国に持っていって、中国で栽培して、日本に輸出することが行われるようになりました。こういうことは、生薬の世界ではよくあることで、「日本種中国栽培」というセンキュウがぼつぼつ出回ることになるでしょう。

3.センキュウの薬理と効能
 センキュウの薬効となる主成分は精油成分で、これが1〜2%含まれているのですが、精油にはいろんな成分が混ざっております。クニデライト、リグスチライト、ブチルフタライド、ブチリデンフタライドそのほか、多種の精油成分が並んでおります。
 本によってはセンキュウラクトン、センキュウ酸などという成分名もでてきます。いずれにしても、センキュウにはいろんな化学物質が含まれておりますので、ある成分を特定して、センキュウの性状を論ずることはできません。
 センキュウの薬用植物としての働きは、広範に及ぶのですが、おもなものは次のとおりです。
 @中枢神経系への作用:中枢に対しては抑制的に働くの が 特徴です。いわゆる鎮痛、鎮静作用などが、発揮されます。
 A心臓・血管系への作用:ここで目立つのは末梢血管の拡張作用です。血管が拡張するので血流量も増加します。血圧は少量では高めになるものの、大量では血圧は下降して血流を増やします。
 B血液への作用:凝血を防止しますので、血の流れを良くします。
 C鎮痙作用:腸管や子宮の筋緊張を和らげます。女性用に使われる一つの理由です。
 D皮膚温度上昇作用:精油成分には、皮膚を刺激する性質があります。この作用が入浴剤に効果的に働きます。持続性にも優れております。

 センキュウのこのような薬理効果は総合して、適用は婦人薬、冷え症薬、皮膚疾患用薬などがあげられております。入浴剤向けでもあることが、お分かりかと思います。
 中国ではセンキュウといっても、厳密には植物が異なるのですが、センキュウは活血薬の部類に入れて、血流の停滞、うっ血などに用いることになっております。

4.センキュウと入浴剤
センキュウは、生薬入浴剤での配合はトップクラスの存在です。もちろん、生薬入浴剤「延寿湯温泉」にも配合されております。
 日本浴用剤工業会の『入浴剤ハンドブック』では、薬用植物系入浴剤の中ではセンキュウを真っ先に取り上げております。ついで、トウキ、ボウフウと並んでおりますが、これらはすべてせり科の生薬です。
 これらの生薬は血行促進効果や、湯冷め防止効果があり、さらに、香りによるリラックス効果も期待できること、などがあげられております。まさにせり科植物の特徴が、入浴剤に生かされております。
 生薬は薬用植物ですので、作用は穏やかであり、通常の使用では皮膚に炎症を起こすような作用はなく、むしろ、炎症を抑える作用があります。毎日、毎日、使用しても、健康に害を与えるような心配は、まずありません。
 センキュウの香りは、万人向きではありません。センキュウのいかにも煎じ薬という独特の香りには、やや好き嫌いを招きます。香りというものには、もともと、そういう性向があります。延寿湯温泉では、センキュウの香りは、リュウノウやショウノウおよびカンピなどと調和して、ややオリエンタルな雰囲気をもたらすのが特徴になっております。

<参考文献>
日本大衆薬工業協会編:改訂版 汎用生薬便覧(2004)
難波恒雄:原色和漢薬図鑑、保育社(1980)
内林政夫:生薬薬用植物語源集成、武田科学振興財団杏雨書屋(2004)
浴用剤工業会:にゅうよくざいハンドブック(1993)

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【延寿通信】 2009年06月01日(月)

延寿通信 第70号

いよいよ薬事法大改正が施行


薬事法大改正いよいよスタート 
5月29日の日経新聞は大きく報じています。「大衆薬 コンビに向け 小分けに・・・・6月1日から改正薬事法が施行され、登録販売者の資格を持つ人を置けば スーパーやコンビニでも 大衆薬を販売できる」
 薬事法の50年ぶりという大改正がこの6月1日から施行されます。
 本通信では、すでに昨年10月、関連事項を第62号にて取り上げましたが、いよいよ実施の時期が来ましたので、再度、薬事法大改正をここで特集します。
 一連の薬事法改正で、最近、マスコミで大きく取り上げられているのは、一部の一般用医薬品がこの改正で通信販売・ネット販売が禁止されたため、これにより従来の客・販売者側に不便・不利を招くことになったことです。しかし、この問題は2年間の経過措置で、一部継続が認められることになりました。通信販売禁止の話は医薬部外品である入浴剤には関係ありません。
 

1.一般用医薬品の販売店が増えます
今回の薬事法大改正は、医薬品の中でも、主として一般用医薬品に限定されております。「一般用」ということは、医師、調剤薬局が処方箋にて扱う「医療用」とは違い、町の薬局などで客が自由に購入できる医薬品をいいます。一般用医薬品は市販薬、あるいは大衆向けなどとも言われることがありますが、最近はアメリカの用語にならってOTC(Over The Counter = オーティシー)という用語がよく使われます。
 今回の法改正の大きな特徴の一つが、新しく登録販売者の制度をつくり、この人たちに一般用医薬品の販売が認められるようになったことです。すでに前年度の資格試験は終わり、有資格者は6万人近くいます。登録販売者は、薬局で、あるいは薬局以外の新しい店で働くことになります。新聞にも報じられているように、新しい制度による店舗にはコンビニなどが大挙参加し、中には医薬品販売の24時間営業を計画しているところもあります。
 この新しい登録販売業は薬局という名前を使うことはできませんが、店の名称には法的な制約はありませんので、通常はコンビニの一売り場として、営業することになるでしょう。法的な業態は「店舗販売業」と呼ばれます。
 従来の薬種商という業態は今回の改正で消えて、薬種商販売業者は登録販売者として、この「店舗販売業」に含まれます。

2.薬剤師でなくても売れます。それを登録販売者といいます。
 一般用医薬品を売ることができるのは、これまでの薬剤師と、登録販売者に限定されます。両者には、販売できる商品に違いがあり、医薬品の安全性に基づいて分けられます。それは客に提供する安全性、使用情報の内容、伝達方法に差があるからです。
 この違いは医薬品を使用上のリスクに応じて分類した「リスク分類」によって扱うことのできる医薬品が決まります。 登録販売者の資格認定試験は都道府県別にて実施されます。かなり難関のようで、合格率は府県によって異なりますが、前年度は、50〜60%ぐらいだったようです。
 配置販売業という業態は残ります。制度そのものは大きくは変わりませんが、販売できる商品は店舗販売業に準じ、客への情報提供は登録販売者の規定が準用されます。

3.薬は4種類に分けられます。これをリスク分類といいます。
 各医薬品の「リスク分類」は、次のように、4段階に分けられて、法律で指定されます。
当初は3段階でしたが、後に指定第2類医薬品が加えられたので4段階となりました。
第1類が、もっともリスクは高く、一般用医薬品として市販の経験が少なく、安全性 
評価も確立していない医薬品が、ここに該当します。
分類のあとのカッコ内の数字は一般薬全体に占める比率です。
陳列する際にはそれぞれ分類別に混在しないように、定められた場所に並べます。

・第1類医薬品(1.5%)----特にリスクが高い
薬剤師が対面して販売する、情報提供は義務、 陳列は定められた第1類医薬品の区画の内部に、購入者の手に触れてはいけない、通信販売はできない 

・指定第2類医薬品(22.8%)---第2類医薬品のなかでも、リスクが比較的高く、注意を要する
薬剤師および登録販売者が対面して販売する。陳列は定められた指定第2類医薬品の区画の内部で、購入者が進入できない場所に。情報提供は義務に近い。通信販売はできない

・第2類医薬品(50.9%)---リスクが比較的高い
薬剤師および登録販売者が対面して販売する。第1類医薬品、指定第2類医薬品とは混在しないように陳列。情報提供は努力義務。通信販売はできない

・第3類医薬品(24.8%)---リスクが比較的低い    薬剤師および登録販売者が販売。第1類医薬品、指定第2類医薬品、第2類医薬品とは混在しないように陳列する。情報提供は不要。通信販売はできる

 生薬は2類、または3類で、一部に指定第2類があります。また、八味地黄丸のような漢方の製剤はすべて、第2類になっております。このように、大枠で分類されていると、わかりやすいのですが、実際には、リストで確認しないと、何が、どの分類かはわかりません。ただし、第1類医薬品の大部分は一般用医薬品として安全性評価の確立していない医薬品で、医療用から一般用医薬品へ移行して、まだ日の浅い医薬品が中心ですので、ある程度の見当はつくかと思います。

4.医薬部外品も定義と表示が少し変わります。
 医薬部外品というのは、薬事法の規制対象にあり、一般用医薬品と同じような扱いで製造販売されておりますが、医薬品と同格ではなく、医薬品よりも作用の緩和な、安全性の高いものが、この範疇に入ります。医薬品というと、薬局、店舗販売業、配置薬販売業でのみ、限られたところで販売されますが、医薬部外品には、その規制はありません。
医薬部外品は、薬局だけでなく、薬局以外のどの店でも扱うことができます。最近は医薬部外品の枠が緩和され、一般用医薬品から医薬部外品に移管された一部の風邪薬や胃腸薬などがコンビニでも販売されています。
 今回の法改正では、医薬部外品の制度は大きくは変わりませんが、枠組みが整理されています。入浴剤は従来どおりで医薬部外品として、どこでも販売できます。
 表示では、殺虫剤の一部に、「注意ー人体に使用しないこと」また、一部の部外品は有効成分の分量を表示しますが、この範囲は変わっておりません。
 要するに、医薬部外品の入浴剤は、今回の変更対象には該当しておりませんので、販売も表示も従来のままです。

5.商品の包装の表示が変わります。
 一般用医薬品の包装には「リスク分類」が明示されます。これは販売するときに、購入者にリスクに応じた説明をしなければならないこと、さらに、店頭で陳列するときに、リスクによって分類しなければならいためです。もちろん購入する客が、包装表示でリスクの程度を認識することは、安全な使用にプラスになるでしょう。
 「リスク分類」の表示は、すでに店頭にある商品には表示されているものが並んでおり、お気づきかとも思います。「リスク分類」は一定の猶予期間のあと、2年後には、店頭の全一般用医薬品の包装に表示されます。
 

6.通信販売は一部では継続して行われます。 経過措置について 
 この問題は省令施行のぎりぎりまで、もめていたのですが、結局、2年間の経過措置として、次の点が認められることになりました。
 @通信販売が継続の対象となる人:・薬局等のない離れ島に住む人、・本年5月31日までに購入した医薬品を継続して使用していると認められる人
 A対象となる医薬品:・第2類医薬品  ・薬局が製造販売する医薬品
                                   
<文献> 厚生労働省の通達類を参考にしました。厚生労働省のホームページにて詳しい
情報がえられますので、ぜひご覧ください。

Posted by 管理者 at 14時03分   パーマリンク

【延寿通信】 2009年04月30日(木)

延寿通信 第69号 2009年5月

痛みを我慢してはいけません

痛みの話


痛みを我慢してはいけません
「痛み」という言葉は意味するところが広く、心の痛みと、身体の痛みとがあり、受け止め方もさまざまです。ここでは身体の痛みを扱うことにします。身体の痛みといっても、これまた部位によって、種類によって、痛みの性格は大きく異なってきます。「痛み=痛覚」は感覚のひとつで、他には触覚、味覚、視覚、嗅覚、聴覚などあります。それぞれ目、耳,鼻ほか身体の感覚器官がセンサーとなって外部からの情報を受け止めて中枢に送り、そこで感じたものが感覚となります。

1.「痛み」という感覚
感覚の程度はまちまちで、たとえば、美味しい、美しい、やかましい、芳しい香り、快い音色などの感覚は日常の暮らしで一般に感じており、強弱、好悪さまざまです。これらの感覚は、対象となる物が存在しますので、共通の認識が出来ます。人によっては感じ方は一律ではなく、Aさん、Bさんが同じようにある物を「美味しい」、「いい香り」と、感じないことはあります。しかし、第三者のCさんに、その物体を示して、感じたことをうかがうことは出来ます。
 ところが、「痛み」=痛覚 だけは異なります。Aさんの口に出している頭痛は、Bさんには通じません。どの程度、どのように痛いのか、Aさんが言葉を尽くして説明しても、Bさんには手に取るようには分かりません。「これがこの痛みです」と、対象物を示すことが出来ないからです。ただし、局部の刺激痛、針でチクリは瞬間ですが、ある程度の共通性があります。
 「痛み」=痛覚は物指しで測定することも出来ません。たとえば公害などで問題になる音の場合、ある場所の音が「70デシベルです」と言えば、程度が分かり、公害の基準を超えているか、いないか、周りの人には理解出来ます。匂いの場合も物指しが出来ております。ところが「痛み」は、これができません。Aさん、Bさんがともに、同じ痛みを感じていたとしても、2人には受け止め方が違うし、Aさんは激痛というかもしれませんが、Bさんにはごく普通の痛みかもしれません。
「痛み」=痛覚というのは受ける人の状態、環境によっても変化します。子供が転んで怪我をすると、遊びに夢中になっている時は、痛みを感じませんが、母親に会って「その怪我はどうしたの、血が出ているじゃないの」と、やさしく言われると、子供は急に痛みを感じて泣き始めます。子供だけではなく、大人の場合も、戦時の場合は、必死になっているときは怪我が分からず、ほっとして、はじめて負傷に気づき、激痛を感じることがあるといいます。
 身体の痛みにはいろいろありますが、痛みの極め付きは尿路結石であるとか、帯状疱疹であるとか、あるいはガンの痛みであるとか、世間ではいろいろ言われておりますが、このあたりのことも、「痛み」という感覚の特徴を表しているのでしょう。

2.痛みと部位
歯の痛み、頭痛、胃腸の痛み、腰痛、ガンの疼痛 いろいろ痛みはありますが、部位によって原因はそれぞれ異なり、治療法も、使用する薬剤も違います。
痛みの中でも世間一般では頭痛が一番多く、国民の4人に1人(約3000万人)は頭痛持ちといいます。その頭痛にも、いろいろあります。頭痛には大きく分けて、機能性頭痛と症候性頭痛との2種類があります。
最も一般的なのが機能性頭痛です。この中には緊張型頭痛、片頭痛、群発頭痛があります。普通の「頭が痛い」は緊張型頭痛で、3000万人のうち、2200万人が、この頭痛に日ごろ悩まされています。片頭痛は女性に多く840万人、群発頭痛はやや特殊で少なく、こちらは男性が多くて、患者数は1万人といいます。
頭痛持ちは一般的に女性が多く、緊張型頭痛では6割が女性、片頭痛は8割が女性だそうです。逆に、群発頭痛は男性が女性の5倍です。
頭痛というのは世界では40%の人が経験しているといいます。歯痛と同様に一般のだれもが経験する日常の痛みと言えましょう。
頭痛に次いで多いのが、腰痛と膝関節痛です。日本人の場合、両者の患者は各1000万人といいますので、5人に1人は、腰痛か膝の痛みに悩まされています。膝の関節痛では、65歳以上の女性が4割を占めています。
痛みには急性痛と慢性痛とがあります。ここで述べているのは急性の痛みで、侵害受容性疼痛ともいい、外傷や打ち身などですが、これらには抗消炎剤が効ききます。
しかし、慢性痛は急性痛とは発生の機構が異なり、がん性疼痛や心因性疼痛をいい、急性痛の連続したものを言うのではありません。

3.痛みを我慢してはいけない
 痛みには出来るだけ早く対処して取り除きなさい、というのが最近の学説で、ひところのように言われていた、次のような発言は、いずれも大いなる誤りである、と指摘されています。
・痛みは我慢が大事である、痛みを我慢するのが男の子だ
・痛みを我慢するのは豪胆であり、美徳でもある
・痛みは生体正常反応で、病気の手がかりだからこれを止めては いけない
・鎮痛薬は副作用が怖いから、安易に服用しないほうがいい
・痛みぐらいでは死なないから、すぐ薬を飲まないで、ほっとき なさい

 痛みを我慢すると、ストレスはたまり、食欲も衰えます。気分はむしゃくしゃで、冴えません。痛みは心身の痛みに転じ、心因性慢性疼痛に移って行くこともあります。さらに、
単純な痛みが神経末端障害性の複雑な痛みとなり、慢性化する恐れがあります。こうなると、痛みの感受性は変化して、普通の痛み止めでは効かなくなってしまいます。そのために、痛みの早い除去が望まれるのです。
 痛みの治療は薬剤による場合が多いのですが、さまざまの痛みには、それぞれ最適の薬剤があります。歴史的には紀元前400年、古代ギリシヤにおいて、痛風の痛みに柳の木の樹皮が使われておりました。この柳の樹皮の有効成分は、近年になって研究が進み、1838年にここからアセチルサリチル酸が発見され、鎮痛薬としてアスピリンの名前で商品化されました。アスピリンは今日もなお、鎮痛薬の主役にはありますが、小児には、このところ副作用のため使用されなくなりました。
新しい非ステロイド性消炎剤は目覚しい進歩を遂げ、次々といい薬が出てきております。急性の痛みでは、最近は非ステロイド性消炎剤の系統が主として使われます。副作用も減り、指示に従えば、その心配は少なくなります。ただし、一般薬といえども、効かないからといって、量を増やしたり、回数を増やしたりという、指示を超えた使い方は厳に慎むべきです。
「痛みにはすぐ薬を使いなさい」というのも安心して非ステロイド性消炎剤が使えるようになったからです。歯痛や頭痛などの薬は大部分がこの範疇に入ります。しかし、使用上の注意はお守り下さい。鎮痛薬を侮ってはいけません。
頭痛の中でも、片頭痛は緊張型頭痛の痛みとは原因が違うので、初期の間は非ステロイド性消炎剤でいいのですが、本来の治療には別の血管収縮の薬を使います。片頭痛専用のいい薬がでています。
ガンの痛みは、これも我慢する時代ではなくなり、早い段階から痛みを取り去るようにという治療法に変わってきております。ガンの痛みがあると免疫力が低下しますので、ガンそのものの改善にも悪い影響が出ます。
わが国のがん治療では、この痛み緩和対策が他国に比べて遅れているといいます。WHO(世界保健機関)では延命とともに、ガンの痛み緩和ケアを早い段階に導入することを勧告しております。苦痛を緩和してQOL(治療以外に病人としての日常の暮らしの質)を改善することは、疾患治療にもいい影響を与えます。「笑い」がガン治療に効果的という学説も、これに関連しております
ガンの痛みにはモルヒネのような麻薬の使われる場合が多くなりました、あへんは古代エジプトの時代から鎮痛に使われてきた麻薬ですが、あへんから取り出されたモルヒネはガンの痛み除去に効き目は素晴らしく、最近では医師は躊躇なく本剤を使うようになりました。WHOはモルヒネのガンへの使用を20年前から奨めていますが、わが国では、かつてはややためらいがありました。
 痛みには薬が一番とは言うものの、薬以外でも痛みを和らげることのできる場合があります。その一つは入浴です。

4.痛みと入浴
痛みで入浴が奨められるのは血流の回復というか、温めて血液の循環を良くすることと、ストレスを和らげることにあります。ただし、これが治療に結びついて良い効果をもたらす場合と、逆に痛みを助長する場合とがありますので、部位、種類によって要注意です。もちろん、痛みあれば、入浴どころではない、そういう時もありましょう。
入浴が効果的であるというのは、ぬる目の湯に入って、筋肉を弛緩させ、新陳代謝を促し、副交感神経の働きで精神的にもゆったりさせる、これらの作用が期待されるからです。
入浴で痛みが緩和されるのは、痛みの中でも一般的には筋肉痛が対象になります。たとえば、入浴剤を使って痛みを和らげることが出来るのは、医薬部外品の入浴剤では効能として神経痛、くじき、腰痛、打ち身などが挙げられています。
入浴がストレスを取り除き、血流改善で肩こりを楽にするので、緊張型頭痛に効果があるといいます。
しかし、頭痛の中でも片頭痛は、頭蓋内血管の拡張が原因の一つでもあり、温度・気圧の変化は好ましくないので、入浴は避けるべきです。片頭痛の治療では頭を冷やすほうがいいと言いますので、入浴は逆効果になります。

5.痛みとの付き合い
 『痛みのサイエンス』の著者半場道子先生は、本書の末尾に痛みとうまく付き合う方法を次のように挙げておられます。ここでは、その内容を要約します。

@痛みを我慢してはいけません。急性の痛みにはすぐ対処しなさい
A痛みは他人には分からない孤独な感覚です。痛みからの脱却は自ら考えて行動します
B医師に伝えるときは、痛みを的確に表現してください
C痛みは自ら制御できるものと思いなさい
D痛みを何か没頭できるものに転嫁して、明るい暮らしを心がけてください

<参考文献>
半場道子:痛みのサイエンス、新潮社(2004)

Posted by 管理者 at 14時12分   パーマリンク

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